ベロニカの目覚め
8ベロニカの目覚め
次の日の朝、朝起きてベロニカの部屋を訪ねた。
トントン
ノックして、扉を開けてから、外から顔だけ出して中を覗き込んだ。
すると、ベロニカはすでに目を覚ましていて、クローゼットを開けて中の確認をしていた。
「おはよう。ベロニカ。体調はどう?中に入っていい?」
そう尋ねると
少し警戒した様子ではあったけど
「どうぞ」
と許可をくれた。
「目が覚めて良かったよ。ほんとに、HP、うーん、生命パワーっていうの?あれを対価にして、精霊魔法使うなんて無茶も甚だしいよ。回復させるの大変だったんだからね。」
と少し怒ったように言う。それを聞いて少し動揺したような、困ったような、でも毅然とした顔で
「ここはどこですか?あなたは誰?セリーヌ様は?」
と立て続けに聞いてきた。
「はあ。気になるのはわかるよ。でも感謝の前に命の恩人を詰問するのはマナーとしてどうなんだろうね。王宮はそんなことは教えてくれないの?」
それに対して、ハッとバツの悪い顔をして
「申し訳ありません。」
と嫌々ってのが、丸わかりな様子で返してくる。
「それに対してゆっくり説明するから朝ごはん一緒に食べよう。着替えをそのクローゼットに入れておいたから、好きなのに着替えて下に降りてきて。
ここは47階で僕の部屋は50階だから3フロア降りてきてね」
そう言って、自分の部屋に向かった。
部屋に戻ったら、ジルベールがスライムの姿でグデーっとくつろいでいた。
「ベロニカが起きたからご飯にしようか。だからジルベールになれ」
って、グデーっとなっているスライムをぎゅーっと抱きしめる。するとぽんって全裸のジルベールになって逆に抱きしめられる。やめてよーよか言いながら、わちゃわちゃしてると、ベロニカがもう入ってきていたみたいで。
「おほん、ゴホゴホ」
うーんと、風邪でも引いたかな?
「あっ、ジルベール服きて、ほらあっちいって」
すーっと、ジルベールを押し退けて、クローゼットの方へ押しやる。
「大丈夫?風邪ひいた?こっちにきて。赤いランチョンマットの席に座って。今、朝ごはん出すから。」
キッチンに入っていって朝ごはんの準備を始める。ベロニカは病み上がりで重いものは食べれないから、パスタと雑穀を入れたスープにしよう。俺たちは、それに肉を焼いたものを添えればいいかな。鍋に水を入れて火にかける。
冷蔵庫の中の豚肉の薄切りをボールに入れて生姜焼きのタレを絡めておく。
キャベツをみじん切りにして、皿に盛ってと。
沸いた鍋の中に、コンソメキューブを入れて、雑穀とマカロニを鍋の中に投入する。ハム、セロリ、にんじん、玉ねぎを細かくみじん切りにする。別のコンロにフライパンを置いて、バターを入れてから、具材を炒める。全体に火が回ったら、塩、胡椒で味を整えるて鍋に投入する。
使い終わったフライパンはそのまま、生姜焼きのタレにつけておいたお肉を焼くのに使う。
薄切り肉だから比較的すぐにやけるが、豚肉だから赤いとこが残らないように確認は怠らない。焼き上がったお肉をキャベツの横に盛り付けて。マヨネーズを添える。スープをお椀にとってと。
「蒼ご飯まだ?」
スライムの姿から王子の姿に戻ってるジルベールが背中に抱きつきながら尋僕のほっぺをツンツンする。ほっぺの人権んが蹂躙されている。ジルベールってずっと一人だったからかなあ。ちょっと距離が近いんだよね。嫌じゃないからいいけどさ。
「今できたよ。これテーブルまで運んでくれる?」
「はーい。」
スープが入った深皿をジルベールがほ込んでくれたので、パンと残りのスープ皿を持ってテーブルへ。残りのものを取りにキッチンに引き返しながら、
「ベロニカ、そいつはジルベール。僕の友達だよ。一応驚いたらいけないから先に言っておくけどスライムなんだ。今は人型になってもらってる。だからスライムになってることもあるけど驚かないでね。」
「え?はい。大丈夫です。多分」
なんとなく察してしまったので、
「それじゃあさ、今からスライムになってもらうからびっくりしないでね。」
「はい。」
ジルベールはベロニカの返事の後、スライムになって、ピョーンと服の中から飛び出してきた。
「これがスライムの時の姿。大丈夫?」
「はい。ええと、可愛いんですね。魔物だって思ってるから、いつもは遭遇したら逃げるか、ウインドカッター飛ばしてたので、普通のスライムをまじまじ見たことなかったです。」
「そうなんだ。できれば、いきなりカッター飛ばすのはやめてほしいな。僕は死なないけど痛いのは痛いからね。」
久しぶりにスライム型で喋ってるのに密かに感動していたら、
「え?スライムって痛覚あるの?」
「あるよ。人間のとはちょっと違うけどさ」
なんて話をしている。まあ、普通気になるのはそっちだよね。僕ってやっぱずれてるのかな?
「OK,じゃあ人間に戻るよ。」
そういうと服の中に入っていく。人間の姿になったのはいいんだけど、服がめちゃくちゃになってる。結局脱いで着直し。今日はクローゼットの中の服が着たいみたいだ。
「あー、めんどくさい」
めんどくさいアピールの方か?
「ふふ、ジルベールごめんね。ありがとう。」
「体調がまだ完全に戻っていないかもしれないから、消化にいい具沢山スープにしたけど食べられるようなら肉もあるから言ってね。よく噛んで食べてください。ジルベールの食事は青いマットの上だよ。」
「蒼、ありがとう。いただきます。うーん。美味しい」
とみんなを待たず食べ始めてしまう。
「もう。ベロニカもどうぞ召し上がって」
ベロニカは、はい、と返事をしてスプーンで、スープを口に運ぶ。
「はい。え?美味しいです。こんなに美味しいスープ初めて」
ベロニカは目を大きく見開いて、驚いたような顔をしてにっこり微笑む。
「そうか、それは良かった。たくさんあるからいっぱい食べてね。でもよく噛んで胃の負担にならないようにね。」
「はい。それで私はどうなったのでしょうか?」
「そうだね、まず僕は蒼。アランとジュリを偶然救ったことで、あなた達に助太刀したんだ。そしたらベロニカは無茶な魔法使ってHPがほぼ尽きかけてて死ぬところだったから、ここに連れてきて治療したってわけ。セリーヌたちはみんな無事で、クレリックのところで匿ってもらってる。ほんでこれに関わった王族たちは全員処分されていなくなって、ミノラ王国、アレジ王国、アンダルシア大公国は一緒になることになって、新しい王様はクレリックが務めることになった。セリーヌは王太女になる。」
「えーーーー。どうしたらこんな短い間にそんなことが決まるんですか?」
「それは、僕が神様の御使だからさ。」
「え?どういうこと?」
「まあ、信じるも信じないも君次第だけど、信じられないことができる力は預かってるんだよ。それで、君も今回は無罪ではない。あいつらほど悪質ではないけど、侍女としてはアウトだ。そこのところはわかってる?セリーヌたちも君のことは罰したくないはずだ。でも、ことが大きくなってしまったから、君だけを庇うわけにはいかない。2つの国の王様と王太子が消えて、謀に関わっていた人間は全て断罪されたんだ。だからベロニカを彼らの元に戻すわけにはいかないんだよ。少なくても今はね。ここで僕の手伝いをしてもらう。かまわないかな?」
「はい。それで何をお手伝いすればよろしいのでしょうか?」
「うん、まあこれからここに多くの人が助けを求めて移ってくる。なので、僕は急いで、教会や街を作らないといけないんだ。手はいくらあっても足りないぐらい忙しくなると思うんで、助けてもらえたら嬉しいなあ」
「ここは、どこなんですか?」
「君たちの言葉では死の谷だよ。でも今は名前が変わって緑の谷になっている。さっき正式にここは僕の土地だと認められたから、僕はここの君主とも言えるね。」
「それであなたの作る町の名前はなんなんですか?」
「イリディングルだよ。聖なる都っていう意味だ」
「イリディングル。素敵な名前ですね。意味はわからないのに、聞いたことのあるような名前。」
「ご飯が済んだら、地上に上がってみようか?」
ベロニカは思っていたよりも調子がいいようだ。食事もよく食べてるし、最初警戒してたのが不思議なほど、僕とジルベールとよく喋ってる。
食事が終わったので『転移』で地上に出る。
死の谷の頃が思い出せないくらい、緑に溢れた美しい大地で、目の前には巨大な世界樹が立っている。美しい川の流れにそって綺麗な花が咲き乱れている。
「ここが死の谷なのですか?草一本生えない、不毛の乾いた大地で、魔獣がどこからともなく現れる魔境だと聞いていました。」
「そうだよ、これまでの死の谷の評価としては間違っていない。でも、最初に世界樹を植えて、地形を変えて、緑が溢れて。ここは緑の谷に生まれ変わったんだよ。神様や大聖霊の力を借りて。これからここに大きな町ができる。すべての人種に門戸を開いた街だ。みんなに同じ義務と権利が課される。君はこの街の住民1号だ。後に続く人たちを助けてあげてほしい。」
「はい。もちろんです。」
「後一つ。君にはもっと強くなってもらうよ。大切な人を守りたいんでしょ?今度は命を粗末にしないやり方で、守り切ってもらう。僕の修行は厳しいよ。着いて来れるかな?」
「ああ、蒼様。私は私は、次こそ守り切ります。大切な人を。よろしくお願いします」
そう言いながら世界樹を見るベロニカの目は少し潤んでいた。




