挿話:二人の王大后と二人の天使
挿話:二人の王大后と二人の天使
ベロニカを連れてイリディングラに戻った蒼は、ベロニカを寝かせた後、どうしても二人の王太后に会わないといけないと思った。この先、2つの王国の王様と、王太子を廃した場合、国で最高の権力者は王太后になる。アレジ王国には王妃がまだ生きてはいるが、病弱で表に出て来ないようだ。
たとえ、二人の王太后に実権はなかったとしても、法の上での最高権力者であってくれたらあとはどうとでもなる。
会いに行くなら今夜しかない。明日には捕縛が始まるから。
「ただいま」
ジルベールが、帰ってきたようだ。城の中に入ったのを見届けて影渡で帰ってきたらしい。
「おかえり。面倒なことお願いしてごめんね。」
「全然大丈夫だよ。それよりベロニカは?」
「ぐっすり寝てる。それでさ、もう一つお願いしないといけなくてさ。」
僕は、ジルベールにこれからの予定を伝えた。王様と王太子を廃して、3つの国を一つにしてクレリックに王として立ってもらうということ。
そのためには、二人の皇太后の手助けが必要なこと。これから彼らのもとに行きたいんだけど、行ったことがない場所だから、転移ができないから、影渡で連れて行ってもらいたいこと。
「働くね。」
「僕ももう寝たいけどさ。ベロニカを襲った刺客に『傀儡』の魔法をかけてあるの。そいつが、明日城に着いたら、王太子に転移の魔道具をつけて、ここの上の階の牢に送り込んでくることになってる。だからそれまでに、全部の予定を済ませておきたくて」
「俺は全然構わないよ。どっちから行く?ラシーヌ王大后から行こうか」
「ミノラ王国の王宮だね。ねえ、擬態って誰にでもなれるの?」
「擬態は、吸収しないとできない。今のところ、人間で吸収したのは、僕だけだから、僕にしかなれないよ。侍女を吸収するのって、後のことを考えたら、悪手だな。」
「そうだね。そうだ、じゃあ擬態を使わない方法でいこう。」
「じゃあ、手を握って。行くよ。『影渡』」
スルスルと影の中に降りていくと、天井に影が見える。今いる空間はだだっ広い何もない空間で、そこをビューんとすごいスピードで飛んでいく。
「もうすぐ、王宮の小屋の影に出るよ。周りには誰もいないっと。さあ、行こう。」
そう言って頭の上の影に頭を突っ込んでいく。二人とも地上に出たら、僕が
『隠蔽』の魔法をかける。姿が認識されなくなったから、
『索敵』を立ち上げラシーヌ様を探す。この先の別館の3階の部屋にいる。
「ねえ、ラシーヌ様の場所わかったわけだし、バルコニーから入れば良くない?」
「・・・・。そうだね。さわがれたら困るから、防音結界かければできるか」
『フライ』をかけて、部屋のバルコニーに降り立つ。すると、手元には数枚の紙が握られており、手紙かな?を読んでいる。驚いて声を上げられると困るので、セリーヌ様の周りに防音結界を張る。
それから念和で話しかける。
『ラシーヌ様、聞こえますか?今、あなたの頭の中に直接話しかけています。あなたの周りには防音結界をはりました。大声を出しても誰も聞こえません。今から姿を見せますが、落ち着いて話を聞いてもらえますか?
僕たちは、アズールとジルベール。今日セリーヌたちを助けてクレリック大公のところまでとどけた二人です。』
周りをキョロキョロと見渡してから
「え?どこにいるの?姿を見せてちょうだい。」
「はい、静かにしてくださいね。」
そう言って、僕らは姿を現した。それで、二人とも仮面を外してラシーヌ様にお辞儀する。
「こんな方法で入ってきてごめんなさい。時間がなかったので。」
すると、ラシーヌ様が僕らの手を取って、
「今、プリシラからの手紙を読んでいました。助けてくれた神様の御使がこんな小さな少年だなんて。本当に危ないところを救ってくれてありがとう。この恩は必ずお返しするわ。」
「僕たちにお礼とかはいいんです。でも聞いてもらえますか?僕は、この世界の安定のために誤りを正さないといけないんです。失礼ですが、ミノラ王国もアレジ王国も王も王太子もどうしようもないと考えています。平和な時なら良かったのかもしれません。でも時間がないんです。もう世界はどんどん壊れて行っている。帝国は一部を残して荒地が広がる荒涼とした国に、聖教国は虚と呼ばれる原因不明の現象で、人が住めないだけでなく、何もそだたない土地が増殖しています。このまま放っておくと次はこの国なんです。だから最初全部壊しちゃおうかって考えてました。でも、残す価値があるものがたくさんあったんです。だから、王様と王太子を廃嫡して、クレリックを3国をまとめた新王国の国王に、王太子にセリーヌをと考えています。そのためには、ラシーヌ様のお力を貸していただく必要があります。王様と王太子がいなくなった後、王室の最高権威はラシーヌ様に移ります。そこで、クレリック大公に国王を依頼したという形をとってもらいたいのです。後もう一つ、この首飾りをカシースに送ってもらいたいのです。それをつけるとカシースを私の領域に転移させられます。国王には別の手を考えてます。貴族の反対や大変なことが起こるでしょう。でもそれらのことは私たち二人で対処します。」
僕が話し終わった後、ラシーヌ様は考え込んでいた。僕たちも彼女を急かすことなく、こちらに話してくださるのを待っていた。こんな重大な事を急に決めろなんて、彼女は王妃ではあったけど、表立って政を行って来なかったはずだ。決断は難しいだろう。でも、時間はない。今決めないと、今ここに生きる人たちで決めたことにならない。彼女が決断しなくても明日の断罪以降の大きな筋は変わらない。ただそこに、この世界の人たちが絡むことはなく、僕が作った流れにただ翻弄されるだけになる。それをわかって欲しいのだけど。
「ラシーヌ様。蒼は、ああ、アズールのもう一つの名前ね。自分のために何かするってことはないんです。いつも誰かのために。
冷静に考えてください。今回、蒼に何の得があると?ラシーヌ様は見ていないからわからないけど、蒼なら、こんな面倒なことしなくても、一人でこの国を落とせます。多分30分もかからない。それなのに、なんでこんな面倒なことをしてると思いますか?この世界に生きる人間に自分たちの未来を決めて欲しいから。腐り果てる世界に再生のチャンスを掴んで欲しいから。僕は、あなたの今夜の決断は1000年後の世界の民に感謝されると信じてます。」
まだ、出会ってそれほど立っていないのに、ジルベールってどうして欲しい言葉をくれるんだろう。ああ僕は本当は不安だったんだ。
「ふふ、ジルベールありがとう。ラシーヌ様このネックレスは置いていきます。明日の朝また来ます。よく考えてみてください」
そういうと、ジルベールの影渡でアレジ王国の王宮へ向かった。
同じように、
『隠蔽』『索敵』でジョセフィン様を見つけると、念和で話しかける。
『ジョセフィン王大后陛下、聞こえますか?今、僕は頭の中に直接話しかけています。』
『ふふ、聞こえてますよ。』
「もうそろそろおいでになるかと思って言いました。」
念和で返事をした後に声に出すということは僕らが姿を隠してここに来たことを知ってるということだ。
「びっくりさせたくなくて、いきなり姿を見せるのは遠慮しておりました。」
そう言って、仮面をつけた僕たちは姿を現す。
「クレリックとラシーヌ様から話は聞かせてもらっておりました。あなたが、アズール様で、あなたがジルベール様でいいのかしら?」
ジルベールにとってみると義理の母親に当たる人。それに実母が支えていた相手。だが二人はこういう関係では珍しくとても仲が良かったらしい。だから、ジョセフィン様もジルベールのことを本当の子供のように可愛がってくれていたらしい。ただ、今顔合わせすると、大切な話が先に進まなくなるから、対面は別の機会でお願いしたら、快く受けてくれた。ジルベール的にもどう説明するか迷いがあるらしい。なので、仮面を外すのは僕だけ。
「はい、そうです。僕は御使として活動するときはアズールを名乗っていますが、普段は蒼という名を使っています。ジョセフィン陛下。」
「ラシーヌ様からお話は伺いました。私は賛成いたします。確かに、大変なことはあるでしょう。クレリックが一人で全ての問題に対処することはできません。軍事力では、敵いませんから。でも、そこはアズール様とジルベール様が埋めてくださるのでしょう?それなら、王や王太子がこれ以上醜態を晒す前に終わらせる方がいい。私はそう考えました。」
「ありがとうございます。では、王様の転移用の腕輪を置いていきます。王様と、クサイン王子、テラノ王子を転移させなければなりません。この睡眠薬を使って眠らせることができたら、手首にはめるだけで、自動で飛んできますので。もしできなくても、僕が転移で飛んできて奴らを飛ばしますから大丈夫です。明日の朝またきます。きっと王様が詳しい内容を知りたくてジョセフィン様を訪問するでしょうから。」
「そうね。あの子ならそうするでしょうね。幾つになってもみっともない。
あ、そうだこの魔道具の鈴持っててください。私に用事がある時に鳴らしていただけたら出ていきますわ。」
「わあ、それは便利な鈴ですね。ありがとうございます。大事に使わせてもらいます。それではまた明日です」
僕の転移魔法を使って、僕らは自宅に帰ってきた。
明日の朝はもう転移が使えるから楽だ。二人でお風呂に入って、早々に休みました。
次の日の朝、早く起きた僕たちはベロニカの様子を見に行って、まだ眠っているのを確認してから『影渡』でランドサットのアンダルシア城の中までやってきた。『索敵』でプリシラ様を探す。今朝は時間がないので、プリシラ様の前に僕だけ姿を見せて転移魔道を手渡す。
『プリシラ様、僕はセリーヌたちを救ったアズールと言います。突然入り込んで申し訳ありません。今日ミノラ王国と、アレジ王国の関係者の断罪を行います。私は、これからラシーヌ様の迎えに行かないといけないので、クレリック様と一緒にお二人をお連れしたいのですが、構いませんか?』
『わかりました。準備はできていますので。』
『じゃあ姿を見せますね』
そう言って、姿を見せて一緒にクレリックを迎えにいく。
「初めまして、アズールです。断罪の現場にお連れします。」
大公は一言わかったというと、立ち上がって一緒に転移した。転移した先には先にジョセフィン陛下が既においでになった。
「ジョセフィン陛下ご協力に感謝します。これから、ラシーヌ様を迎えに行ってから、アレジ王国の王子二人を転移させにいきます。失礼します」
転移でラシーヌ様の元に飛んだ。『隠蔽』で姿を隠して様子を窺う。着替えはもう既に住んでいるようで、お茶を飲みながら
『おはようございます。念和でお願いします。侍女がいるので。』
『おはようございます。昨日ジョセフィン様とお話をして、私も協力させていただくことにしました。朝1で首飾りをカシースに送りました。私のお茶会に誘っておきましたので、必ずネックレスをつけるはずです。』
『カイデルと国王は先程別のものの手によって既に転移させられております。ラシーヌ様もご支度できましたら、ご一緒に参りましょう。お留守の間は私の魔法で作ったコピードールが代わりを務めます。』
『隠蔽』
『コピードール』
本物のラシーヌ様を隠して、コピードールを出す。
『ラシーヌ様、声出したらダメですよ。』
『あんなそっくりな生きてる人形なんて。』
『はい、お気に召しました?それでは時間がないので転移しますね。』
ラシーヌ様とジルベールを連れて転移したのは、アレジ王宮の小屋の裏。
ジョセフィン様は、王様に腕輪をつけて転移させご自分にもつけて転移したようだ。なので、バカ王子二人を転移させなければならない。
『索敵』すると二人は同じ部屋にいるようだ。そこまで『フライ』で上がる。
ああ、玉座の間か。王様は二人を呼び出しておいて、事情を聞くためにジョセフィン様に会いに行ったのか。
じゃあもう時間もないし、魔道具のブレスレットを二人の手首に飛ばす。瞬間的に転移されていく。
「うまくいきました。それでは断罪の現場にお連れいたします。」
6 2つの国の愚かな指導者たち
ここは、緑の谷にある豆の木の45階に作った会議室。
白いだだっ広い部屋の中央に縦に長いテーブルが置かれ、お誕生席に僕、ミノラ王国側には、国王ガストン、側妃カシース、王太子カイデルの3人が並んで座っており、アレジ王国側には国王マルード、王太子クサイン、第2王子テラノ、の3人が並んでいる。
僕の後ろには、ジョセフィン・アレジ王国王大后、クレリック大公、プリシラ大公妃、ミノラ王国前王妃ラシーヌが並んでいる。
「めざめよ」
かけていた闇魔法から全員を覚醒させる。
目を覚ました一同は椅子に縛り付けられている様子から騒ぎ出す。
「うるさい」
一喝すると手首、足首の戒めを強める。
「静かにしないと、もっとキツく縛りつけるぞ。そうなると血が通わなくなってポロリ。それでいいなら騒げばいい。」
途端に静かになる。簡単なもんだ。
「僕の名前はアズール。セリーヌたちを救ったのは僕だ。故にお前たちがいくら騒ぎ立てようと悪行の全てを知っている。セリーヌに対しての今回のことだけではない。過去に犯した多くの事件にお前たちが関わっていることは明白。
故にお前たちは王族から除籍し、ミノラ王国、アレジ王国、アンダルシア大公国は合併され一つに国になる。初代王にはクレリック大公がつき、王太子にはセリーヌがつく。王位継承は出生順とするので、アリサ、セディが継承することとなる。」
「ふざけるな。王族でもない何処の馬の骨ともわからぬやつにそんな勝手なことができると思っているのか?」
まあ、バカならこういう反応に出るのは当然だよね。
「俺の後ろにいる人間を見てまだわからんか?お前たちを除いた最高権力者が揃っておるのだが。それに、マルードそなたは忘れておるのかもしれんが、本来王権とは誰が授けたものだ?お前の先祖が書かせた嘘だらけの建国神話の1行目になんとかいている?」
「王位は神によって認められ授けられた。」
「そうだ。それを王権神授説という。多くの国が建国神話においてその説を採用している。故に、僕は地上の王を決めることができるんだよ。なぜなら僕こそ5柱の管理神の御使いだからだ。」
「何を訳のわからんことを。この詐欺師め。」
カイデルがそう喚いた。流石にカチンときたので
「不敬である」
というと、カイデルの全身の毛を剃り上げてやる。
「きゃー、カイデルに何をする。殺してやる」
カシース側妃が怒鳴るので、冷たく一瞥をくれる。
「ひい。人間の支配者に興味はない。我が主人は天上世界の神のみ。其方たちの権威に跪く必要がどこにある。女、お前の方が不敬である」
こいつはシミだらけの顔にしてやろう。
「うええ、母上。顔が顔があ。」
「え?私の顔がなんだというのです。なんなのです。」
「うるさいわ。このあばずれが。この鏡で奴の顔を見せてやれ。」
ジョセフィン様はそういうと侍女に鏡を持たせてカシースの前にはこぶ。
「きゃーーーーー。早く元に戻しなさい」
いつまでもやかましく叫んでいるのでボックスで隔離。
「何か言いたいことはあるか?」
すまし顔で尋ねる。
「お前たちが納得しようがしまいがもうすでにお前たちへの沙汰は決まっている。これ以上無駄な時間を使うつもりはない。まずは、カイデル。此度の事件の首謀者はお前だ。このような謀に使う能力を真っ当なことに使えればよき王になれたであろうに残念だ。其方は犯罪奴隷として鉱山での労役を科す。」
奴の胸に犯罪奴隷紋を入れる。
「クサイン、其方も犯罪奴隷として鉱山での労役を命じる。」
「テラノ、其方は犯罪奴隷として鉱山での労役を命じる。」
「カシース。其方は修道院での下働きを命じる。」
「ガストン。其方は農奴として新たな開拓村での労役をかす。」
「マルード。其方は男爵として聖教国との国境を守るように。」
一方的に判決を言い渡すと各自を居るべき場所へと転移させる。
そして後ろを振り向くと笑顔で、みんなに笑いかけ
「お疲れ様でした。少し休憩を入れてこれからのことを相談しましょう」
そう言って、お茶を飲みながら一息を入れる。




