王大后ジョセフィンとアレジ王国
5王大后ジョセフィンとアレジ王国
アレジ王国では、突然のセリーヌ失踪により王宮は大混乱に陥っていた。
国王であるマルードは、宰相であるロックサンド公爵エミリオを呼び出し、事実確認を行なっていた。
「セリーヌが、アリサとセディを連れて失踪とは一体どういうことなんだ?」
「はい、まず昨日未明になりますが、テラノ第2王子傘下の一軍が王太子宮
に訪れ、セリーヌ王太子妃に開門と、面会を求めたことが始まりのようです。」
「なぜそのような非常識な時間に、使者ではなく武装した一軍が王太子宮に向かったんだ?」
全くもって意味がわからないと、マルードは頭を抱える。
「それが、テラノ第2王子に問いただしましたが、自分は全く知らないと言い張っておりまして。王太子宮に出向いた騎士に尋ねますと、第2王子より、王太子妃つき侍女ベロニカを捕縛せよと命令があったというのです。」
「理由は?」
「ミノラ国に派遣している諜報員から、ミノラ王国王太子のクサインが、アレジ王国を攻撃する準備をしていようだとの連絡を受けたことに始まるようです。方法は、セディとアリサを確保し、国王と皇太子を殺害、傀儡政権を樹立するということだったようです。」
首を捻りながら喋る宰相に対して頭を抱える国王。
「はあああああ。バカだとは思っていたがここまでとは。そのような事
できるはずがなかろう。それに仮にそうだったとして、皇太子宮に軍を率いて向かうなど愚の骨頂。手引きをしている侍女の排除だけなら他にいくらでもやりようがあるだろう。それに加えて、なぜワシに相談せず独断で行ったのか、また皇太子は宮におらずどこにおったのだ。異国で2人の子供を抱えて不安になっセリーヌが逃げるのも致し方ないことだ。」
「ただ、セリーヌ様がお逃げになったルートは我々も知らないルートで、裏の森の小屋に繋がっておりました。この件に関してはセリーヌ様からも詳しく伺わないといけません。」
「はあ、まあそれはそうだ。王太子妃とはいえ元は他国の王女。外から間者を引き入れることが可能な抜け道を国王であるわしに無断で作ったとあれば問題ではある。だが、クサインが妾の屋敷に詰めていて、あやつの仕事もほとんどセリーヌが行なっておる。王太子宮の関係者も多くはセリーヌに好意的だ。その上、今回のことはどこを切り取っても我が国の方が悪い。ここで問題を大きくして、セリーヌがアリサとセディとともに帰ってこないということになれば、その方が大問題だ。なんとかして、あやつらを引き戻さなければ。行方はもちろんおっておるのだろう?」
そういうと、いつも冷静な宰相には珍しく軽く顔を顰める。
「それが、大森林に向かう道で、戦闘の跡が残る場所を見つけております。
デボラータの検問所でそれらしき馬車の通過を確認しております。ただ、戦闘がなかったとしましても、馬車でデボラータに着く時刻よりかなり前に通過していますのでなんとも。ただ、その馬車がそうだとしましたら、ランドサットのクレリック大公の元に向かったのではと考えております。」
「やっぱり、そうだろうの。そうなったらこれはただでは済むまい。」
マルードは椅子の背もたれに体を預け大きく息を吐き出した。優秀すぎる弟を怒らせたのだ。王子たちはただでは済まない。その余波が自分にもかかってくるだろう。なんとかうちうちで抑えようと思ったがそういうわけにも行かぬようだ。
「クサインとテラノを呼べ。わしは母上の元に行ってくる。」
「は。承知しました。」
宰相はそういうと、玉座の間を辞し、王子を呼び出しに外に出ていった。と同時に王は王大后の済む離宮に向かうため、近衛を引き連れて出かけていく。
「お母様、先触れもなく参りましたこと申し訳ございません。」
そういうと、母である王大后ジョセフィンのいるサロンに入っていく。
朝食を済ませ、お茶を飲んでいたようである。
「国王陛下、ようこそお越しくださいました。どのような急用でございますか?」
椅子から立ち上がり、軽く礼をし国王を迎えるが、その言葉には咎めるニュアンスが多分に含まれていた。
「今回は、クサインとテラノがやらかしてしまい、セリーヌとアリサ、セディが王太子宮から姿を消してしまったのです。宰相がいうにはクレリック大公を頼ったのではないかということなのだが、何か聞いていらっしゃいませんか?」
「はあ。マルード、まあ座りなさい。お茶を入れ直してちょうだい」
侍女に指示を出し、国王を座らせると自分もその向かい側に座る。
「マルード。私は何度もあなたに言ったはずです。クサインに態度を改めさせるようにと。セリーヌはあの子には勿体無いできた妃です。それでお前は一体どこまでこの状況を把握しているの?」
「宰相の報告で事実確認のみはしましたが、背景についてはまだこれからです。」
「やはり、お前を王位につけてはいけなかったわ。これしきのことも把握していないとは。お前たちに残した草たちは一体何をしているのかしら。
まず、セリーヌたちは無事よ。クレリックが保護したわ。それでその背景だけど、この謀はミノラ王国の、カイデル王太子とカシース側妃から始まっているの。元々セリーヌはこちらに嫁いでくる前は王太子の仕事をほとんど一人で回していたのよ。もちろん文官はいるわ。でも文官はあくまで手足、判断や決定はできない。セリーヌがいなくなってから、徐々に国が回らなくなっていたのよ。それであの間抜けなガストンでさえ何かおかしいということに気づき出して、あの二人は一気に立場が苦しくなってきたわけ。今までも全てセリーヌに仕事をさせてたのではないのかと追求され、過去を本腰入れて調べられると困ると思ったのね。
それで、カイデルはクサインに女を送ったわけ。今夢中になってる愛妾のモンゴメリよ。そうやって、モンゴメリを側妃、本当は王太子妃にしたくなるように仕向け、カイデルはクサインに対して、モンゴメリを王太子妃にして、かつ二人の間の子を王位につかせるには、セリーヌ、アリサ、セディが邪魔になるだろうと。それを自分から出て行かせるように仕向けるから、そしたら王子と王女を誘拐した罪人だと騒ぎ立てればいいと言ったわけ。自分が何もしないで、モンゴメリを王太子妃にできるならってことですぐに飛びついたのよ。救いようのないばか。
そしてテラノに対しては、妾に入れ込んで政を疎かにしている王太子より、あなたの方が次の王に相応しいから夜中に少数の部隊を率いて王太子宮を制圧するべきだと言ったのよ。中に入って、王太子印を確保して、セリーヌたちを拘束すれば、王太子の座は転がり込むと。多分中から内通者が門を開くって言われてたんでしょうね。そんなこと起こるはずもないのに。
それから、セリーヌの侍女のベロニカには、王太子妃として扱いの悪いセリーヌが不憫だからミノラ王国に領地を与えるので、セリーヌを城から出せと言ったらしいわ。夜中に第2王子が攻めてくることも伝えていたのでしょうね。セリーヌが逃げた通路は、3代前の王太子が作った避難経路だったのだけど、それが王家に伝わっていなかったのを、セリーヌが見つけて、通れなくなっていた場所をうまく掘り直して作り直したそうよ。セリーヌも自分を顧みない王太子から身を守るための保険の意味もあったのでしょうね。それで、何かあった時のためにって自分の側近に守らせていたらしいわ。
そうやって、うまくセリーヌたちを城から出して、殺害しようとしたらしいのだけど、ベロニカが時間を稼いでいるときに、
ある公貴なお方に救われたらしいわ。その後クレリックの城までなんとか落ち延びて今に至っているのよ。」
王大后が話し終えるのを、呆然と待っていたマルードはいうべき言葉を失った。手元に出された紅茶を一口飲むと少し冷めていて一気に飲めてしまった。結構長い間話を聞いてたんだなと思ったのを最後に気を失った。
「あなたのバカに付き合うのも今回で最後のようね。もうあたしでは庇いきれないわ。」そう言って、王大后は国王の右腕にブレスをはめると王はその場から消えてしまった。そして自らも腕輪をはめると自分もその場から消えてしまう。お付きのものが騒ぎ立てて、呼び出された宰相が見たのは誰もいない部屋だった。




