アンダルシア大公の怒り
3アンダルシア大公の怒り
クレリック・デル・アンダルシア大公。現アレジ王国国王、マルード・ド・アレジの弟に当たる。気性が激しく、考えの浅い、国王の弟でありながら、文武に秀で、性格は穏やかな名君である。アンダルシア大公国は、アレジ王国とミノラ王国に挟まれた中央に位置し、北に商都オリサルト、中央に古都ランドサットを擁し、経済・文化・流通の一台拠点となっている。アンダルシア城は古都ランドサットの中にあり、アレジ王国とミノラ王国が分裂する前までは王城であった。
アンダルシア大公の妻が、ミノラ王国の王女であったプリシラ・ディ・ミノラ、現在のプリシラ・デル・アンダルシアである。性格の合わない、ミノラとアレジの国王同士の中を結果的に繋ぎ、戦争を回避するのに一役買っている。その実、二人は政略ではなく恋愛結婚であり、結婚して二十年の時が立つが、いまだに仲睦まじい夫婦である。
そんな二人が期待しているのが、セリーヌである。美しいだけではなく、優秀で、善良な王太子妃は、出来の悪い二人の王太子を抑える最後の希望と思われている。そのセリーヌが、昨日から子供を連れて行方不明であり、反逆者であるというとても信じられない一報が届き、二人は心から案じていた。手のものを放ち、情報を探らせるも、森の中の炭焼き小屋からパタリと情報が途絶えてしまっていた。プリシラは、自分に娘がいないのもあって、小さい頃より本当の娘のように接してきていた。
「あなた、新しい知らせはありませんか?」
ソファに座りながら、編み物を手に持ち放心状態だったプリシラが、部屋に入ってきた、クレリックに気付き尋ねる。
その問いかけに、軽く頭を振ると
「いつものように、女遊びに耽るクサインが離宮に詰めていて留守の時に、午前3時というあり得ない時刻に第2王子のテラノの配下が王太子宮に詰めかけたらしい。それを見て、逃げ出したようなのだが、その後の足取りがつかめていないようなんだ。森の中の炭焼き小屋の床から、地下通路に続く通路が見つかったので、そこから逃げ出したのだろうとは言われているが、そのような出口は王家は作っていないらしく、それも反逆の意図ありの証拠にされているらしい。」
「何故、そんな非常識な時刻に騎士を派遣したとテラノは言ってるのですか?」
「それについては、国家の安全のための秘密事項であると言うことで答えていないようなのだ。」
「いくら王太子がいないとはいえ、王太子宮に騎士を向けるなど、不敬であることには代わりないのに。」
そう言って、二人でため息をついていた時、執事が部屋に入ってくる。
「旦那様、奥様、緊急の用事とのことで、マーシャル夫人からの書簡を携えたものが裏口に参っておりますが、いかがいたしましょう?」
「え?」
顔を見合わせた二人は、
「すぐにここに通してちょうだい。全員をできるだけ誰にも見られないようにお願いね。」
執事はその切羽詰まったような勢いにびっくりしながらも
「はい、承知いたしました。」と返事をすると、裏口へと急いだ。
裏口へ戻ってみると、先ほどは一人だったメッセンジャーが5人に増えており、赤子と少女の姿もあった。
執事は彼らに大きなストールを渡すと、
「それをかぶって、こちらから私の後ろをついてきてください。」と言うと、先導し始めた。
大きな扉の前で、ノックをし、入室の許可が与えられると、そこには、上品な佇まいの二人の貴族が座っていた。
「おばさま」
セリーヌがそう言ってプリシラに駆け寄ると
「セリーヌ、やっぱりあなたね。二人の約束を覚えていてくれたのね。」
そう言って優しく抱きしめた。昔、緊急の時の合言葉を決めていたことをセリーヌが覚えていてくれたことが嬉しいようだ。
「おばさま、この子がアリサで、この子がセディ。」
「まあ、アリサあなた随分大きくなって。あなたが赤ちゃんの時にあったきりだから、こんなに可愛い女の子になってるなんて。」
「アリサ、私のおばさまのプリシラ様よ。あなたの大叔母にあたるかたよ。」
「大叔母様、アリサです。」
可愛らしく礼をするアリサを抱き締めるプリシラ。
「よくきてくれたわね。もう大丈夫よ。何も心配しないで。」
それを横目に、セリーヌはアンダルシア公爵に挨拶する。
「クレリックおじ様、こんなことになってお邪魔してしまい、申し訳ありません。皆様にはご迷惑をおかけしないように、いたしますので、まずは話を聞いてもらえませんか?私もよくわかっていない部分も含めてジュリが説明します。」
「セリーヌ、そんなこと気にする必要はない。それより、よく私たちを頼ってくれた。お前たちを追い込んだ奴らには、私が相応の罰を与えてやるから安心しなさい。」
セリーヌは頼もしいおじさまの言葉に安堵しつつ、落ち着かない心を持て余しながらジュリの話を聞く。
聞いた内容は驚くべきことだった。ベロニカが騙されて裏切ったとか、普通信じられない内容ではあったが、ミノラ王国王太子の謀に、アレジ王国王太子が乗り、テラノ王子が唆されて謀の口火を切ってしまったと。セリーヌはそれを聴きながら、悔しさと悲しみに暮れていると、向かいに座るクレリック大公が何も言わず拳を振るわせていた。
そこにジュリがクレリックおじさまに手紙を手渡した。
「クレリック大公陛下、わたしたちを救ってくださった、10歳ぐらいの黒髪と金髪の少年二人連れのアズール様とおっしゃる黒髪の少年が大公に渡してほしいと手紙を託されました。こちらでございます。」
それを読みながら険しくなるおじさまの様子に緊張していたら、おじさまは大きく息を吐き出すと、私たちに向かい笑顔でこういった。
「3人とももう何も心配することはないよ。私はね、もう許さないと決めたから。あとは私に任せておきなさい。」
そういうと執務室に一人入って行った。側近たちを呼び出して会議をするようだ。すると残された私たちにプリシラ大公妃が笑顔で言った。
「まずは部屋に案内させるから、お湯を使って着替えをしてちょうだい。それからお食事にしましょう。二人ともお腹空いたわよね。」
と二人の王子と王女に問いかける
「うん。お腹すいた。」
「はい。嬉しいです」
さあ、いきましょう。と言って二人の手を取りプリシラおばさまは私の前を歩き出した。
その夜は前の晩とは異なり安心してぐっすり休むことができた。
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