第四話
繁華街から少し外れた大通りを歩いていると、大きなビジネスビルの横の小さな広場で、何やら少し人だかりが出来ていた。
僕は気になって少し歩く速度を遅めながら、じわじわとその人だかりに寄って行った。
すると人だかりの真ん中にはカメラを構えた人が数人、その他の機材を構えた人も数人。そしてまたその人たちの真ん中に、服装や髪型を整えられながら立っている人たちが数人いた。
あっ…これ、ドラマか何かの撮影だ!
そう思った僕は、今気になっているのが若手俳優ということもあって、思わず野次馬の気持ちで、すでに群がっている人たちと一緒になって少し背のびをしながら、人だかりの中の様子をチラリと覗いてみた。
普段、そうそう遭遇するもんじゃないしな…と、気軽な気分で覗いてみたけど、人だかりの真ん中で演技している人たちを見ても、僕には誰だか全くわからなかった。
それもそうか…
僕は最近、BLドラマを見始めただけで、普段からテレビというものは全く見てこなかったもんなぁ。
でも、これだけ人だかりが出来てるってことは、きっと何か…有名な人なんだろうなぁ…と、まるで他人事のように思ってしまった僕は、無理に背伸びすることを止めて、その場から立ち去るように、新たに寄ってくるを人波を縫って歩いた。
あれがドラマの撮影現場かぁ…
すごいカメラとかマイクとか…機材もだけど…めちゃくちゃ大人数に囲まれてるんだなぁ…
きっとあれが、ドラマのワンシーンと言われるもの…
真ん中にいたスーツの役者さんが二人…、その人たちが動けば…それを取り囲む周りのスタッフさんの輪が動き、さらには、それを追いかけるように、周りの人だかりの輪も動く…
すごい空間だったなぁ…
僕にとってはあまりにも非日常な人だかりの中にある空間で、あんなにも平気で多くの人たちを動かしている役者さんは普通の顔をしていた。
僕には全く何も想像が出来ない世界だったんだなぁ…
なんて、彼らの日常を想像して、さらにはそれを気になっていた若手俳優に当てはめて想像してみたけど、今までなぜか身近に感じていた彼が、少し遠い存在のように思えた。
違う違う、元から遠い存在だったんだって。たまたま似た人を見かけただけだし、何よりその見かけた人すら、別に…知り合いでも何でもなかったんだから。
そういえば、もう会うこともないような人をいつまでも覚えていて、なおかつ…勝手にその人の気持ちを妄想しているなんて…
「僕は一体、何をやってるんだろう…」
思わず漏らした独り言は、声にならない声をしていた。
それでも一応は、全部僕の勝手な妄想だから…と、言い訳をするように溜め息を吐くと、人の邪魔にならないようにと、道の端に体を寄せて、カバンの中からスマホを取り出した。
そして僕はいつものように慣れた手つきでメモ帳を開くと、スルスルと今の自分の気持ちだけを書き込んでいった。
『日常の中にあるのか…こんな非日常な世界が…』
もはや、妄想でも何でもない。ただの一般人としての僕の感想。
そう思うと、今まで書き込んできたことも、妄想じゃなく…ただの僕の考えで、僕が勝手に…カフェで会った男の人を若手俳優に仕立て上げて、その人の行動を勝手に若手俳優の行動と紐つけていただけで、その二人すら全く関係ない人なんだよなぁ…
そう思うと、僕は急に…また、誰の気持ちもわからない、誰の気持ちも想像できない人間になってしまった。
みんな、何を考えて…普段を生きてるんだろう…
そう思うとまた、僕の日常には何もないような気がして、ぼんやりとスマホをカバンの中にしまいながら、フラフラと歩き続けると、目に入ったチェーン店のカフェで、窓際の席を物色しながら僕は、次に投稿するネタは…どうしようかなぁ…と、熱量低めに考えていた。




