435話 ソバに置いてね
ソバを本格的に販売することになったヘイロク。
繁盛させるために動く。
瞬く間に流行したという桜の花型の紅白餅。
ヘイロクの店では、桜の花型の紅白餅は少し高くて定期的に買えない庶民と下級武士。
なんとか甘いものでも食べて元気をだして欲しいと願った。
峠などの茶屋で昔からあるヒエやアワで作るあまり旨味のない団子。これを糸口にしたのが、余り物で団子を作るという。どうせ捨てるなら最後まで使ったほうが良いと考えたもの。
最近試作続きのソバ。どうしてもハンパな量が残ってしまう。大事に集めて仕舞うが新しく挽きたてのソバ粉と比べると味に僅かな劣りが出てしてしまう。混ぜてごまかすことも考えた。
ならば、余った少量のソバ粉を使い団子にしてしまおうかと。
糸口となったヒエやアワはかさ増しに使うことが多い。これと同じく余ったソバ粉だけで不定期に作っていけば団子も売れるかも知れない。
そこで、ヘイロクはウツノミヤの茶屋の店主たちに声をかけ、余り物のソバ粉を使った団子を時々買い求めに来てほしいと伝えソバ団子を各茶屋ごとに特色のある団子を販売してほしいと頼む。
しかし、茶屋の主人たちは。
「なぜ余り物の粉で作らにゃならん。作るんだったらあんたのところで作れ」
とあまりにも良い反応をしない。
ヘイロクとしては、雑炊売りを本格的にやっていきたいのと麦茶の販売にも力を入れたい。夜は、酒の提供と鯉や鮒の煮つけやお造りを出したいと願っている。紅白餅もありできればこの紅白餅も売上の一割をいただきたいと委託も検討している。なにせ、自分の店で働くのが妻のムギだけだからである。圧倒的に人が足りない。ソバも本格的に販売したい。
それらをグッと飲み込んで、茶屋の主人たちに再度頼む。
「わかるが、団子は団子を扱ってるところに頼むのが筋だ。それに、今ソバ粉はうちの店で挽いたものだが、これらを売るとそれなりの額になってしまう。人々はまだソバガキしか知らないのだ。ほしいと願う人は少ない。だが、余ったソバ粉を安値で販売する。それを使っていかようにでも使ってくれたら捨てずに助かる。捨てるには惜しいのです。どうか助けるつもりで協力してはもらえませんか?」
あまりにも折れないヘイロクに根負けしたふたつの茶屋がお試しにと引き受けた。
引き受けた茶屋には早速小袋に余ったソバ粉を入れて手渡す。
持ち帰り開いたそのソバ粉を見て。
「なんだ。これは!」
駆けつける茶屋の主人たち。
「どうかしましたか」
「どうかしたじゃない。これのどこがソバ粉だというのだ!」
小袋を開き手に取り出すと手渡したものだった。
「間違いありません。これがどうかしましたか」
「ああ!?わからねえのか。これは余りもんじゃねえ。れっきとしたソバ粉だ」
「ええ。そうですが。ソバ粉ですがなにか」
「余りもんだと聞いてたが粗く挽いたソバ粉で見た目が悪い。とんだもんを掴まされちまった」
「だったらなんです?余ったソバ粉に違いはありませんが」
店主たちは、不出来なものを想像していた。挽きすぎてソバの実が感じられないものだとばかり。
「ですから、ソバ粉だと言いましたよ。とりあえずそれでいくつか売ってみてください」
初回の小袋は無料で手渡されている。お試しであることからか。
しぶしぶソバ粉で団子を作ることになった。
いざ店に出すと、見慣れない団子があると試しに購入する人がチラホラ。
ソバ粉だけで作った串団子といつものヒエやアワの混合した串団子。食べ比べる人が増えてきた。
ソバ団子の人気が日に日に上昇していく。3日おきのヘイロクの店が2日おき。ついには毎日買い求めに行くようになる。
ヘイロクは、ほそぼそとソバを販売しているがまだ波に乗れないでいる。物珍しさに注文するくらい。
余らせてはいけないと鍋に入れたりして採算がとれてない。
しかし、それでもソバを売り続けるには理由があった。
藩主マサズミがツネタロウの屋敷に遊びに来た日のこと
「いきなり売り出しても売れるとは思えないんです」
「そうだな。知らないものに金を出せるもの好きは少ないからな」
「せめてソバを挽く職人でもいたら」
「今はまだ難しいだろう。そもそもソバと聞くとそばがきを想像する。ウマイウマイと食べる者は少ない。それを美味い美味いと言わせるようにするにはただ売るだけでは難しいだろう。良い案がある。聞きたいか?」
そしてツネタロウの案は、無事採用される。
案とは
「団子としてソバ粉を売るのだ。それはヘイロクの店ではなく例えば他のめし処に頼むとかな。あとは団子を扱ってる店に頼むと良い。ヘイロクは余ったソバ粉として安値で売るのだ。量は僅かであること。最初はお試しだとしてひと袋タダで渡す。すると悪い気はしないと持ち帰る。持ち帰り団子を作らせ売らせる。安値で売るだろう。その安値の団子を試しに食べた者たちが評価し広めてくれる」
「それで、ソバ団子美味いとなれば、ソバも売れるかも知れない。とでしょうか」
「そうだな。そうなれば良いな。これはあくまでも連鎖してようやくソバにたどり着くのだ。単にソバを売るよりかは認知されるのがいくらか早くなるだけだ。少し耐えてくれよ」
ツネタロウとしてもソバが売れないことには、知行地のソバの在庫を抱えてしまいかねない。
ヘイロクの店で火が付けば、他のめし処でもソバを扱うようになるだろう。
そば団子が売れていき安値で販売できなくなる。そこで、茶屋の主人たちは考えた。
味のバリエーションを増やせばよいのだ。
甘みのあるソバ飴を使う。そば飴団子の販売である。
ムギの祖母も一枚噛んでいるソバ飴。商売人として格上のミブ藩での人気は上々。
ソバ飴は庶民でも買い求めるほどの人気となっている。
それを知らずか聞いた茶屋の主人たちは、ソバ飴がウツノミヤでも手に入るとして塗って使うことに。
すると、そば団子に飽きてきた人たちが戻って来る。
そば団子の他にもこれまでの団子にもかけることで茶屋の人気は上がる。
茶屋の2つの店だけが独占状態だったが、他のオウシュウ街道側の茶屋もソバ飴を使いだす。
結果としてソバの実をコメの代わりにして実入りを増やす作戦は上場の出だしとなった。
ヘイロクのソバもまた認知されてくる。
その頃を見計らい、堂々と紹介する。
ホンダ上野介マサズミさまも召し上がった
これには、試しに食べていた者たちが一気に注目するようになる。
飛ぶように。とはまだならないが、昼の内には無くなるほどの人気。
番重にいくつか準備していたソバがその日のうちに売り切れる。
自分たちで食べることもだいぶ減った。
そうなるとヘイロクは次の手に動く。
念願の職人にソバを挽いてもらうことになる。
朝の陽が出る前に夫婦で挽いていたソバを専門職人に挽いてもらうことになった。
これで夜が増えると喜ぶ。
紅白餅もまた専門の職人に委託することにした。型を与え竹の皮に包むところまで委託。
番重にふたつほど作ってもらう。
これらの職人は、ソバ飴の職人たちと連携してひとつの商人として動くようになる。
今はまだ、ヘイロクの店に卸すだけだが、他の店からも依頼が増えてきているという。
ツネタロウの知行地でソバを大量に植えたことから始まる。
うまく連鎖が広まっているのを実感。
ツネタロウは次の策に動くその刻が来た。
ビジネスマーケティングの手法として、フロントエンド商品とバックエンド商品というのがあるそうです。
安い商品で興味をもたせ、関連する別の商品を売るというやり方。
無料試供品がフロントエンド商品
本命商品がバックエンド商品
となるそうです。
そば団子はフロントエンド商品
ソバはバックエンド商品
となります。
夜が増えると喜ぶ新婚さん。
ふーん
ではまた見てね




