436話 建築中
エドでの視察が役に立つ日が来た。
久しぶりのアクツへ。知行地であるアクツは川沿いにあるものの土壌改良しなくてはならないほど荒んだ土地。すぐには米は期待できないとしてソバを植えることにした。夏前に刈り取るとして早めの対策に打って出た。
大工の棟梁であるゲンゴに春前から頼んでいた水車の建設に移ってもらう。
アクツまでの移動とアクツにしばらく住むということで、水車小屋建設予定地の近くに簡素な家を立てる。家の横に資材置き場も作っておく。簡素な家や資材置き場が出来上がるまで村長宅に泊めてもらう。
どんなもんかとツネタロウはタダキヨを供にアクツへと向かった。
いつも下働きのような作業や使者が続いていた。たまには供として友としても出かけたかった。すっかり友という横に並ぶようではなくなったが、よく頑張っていると評価されての供として出かけることになった。
馬での移動。2時間もしないうちに到着。馬をタダキヨに預け村長のアクツゲンゴウロウと話す。
「それがですね。泊まると思ってたんですが、その日のうちに建てられて」
「そんなにですか。いやでも、泊める準備をしてくださったことに感謝します」
「いやいや。お世話になってますゆえ」
「それではちょいと棟梁のところへ行ってきます」
なんとその日のうちに住む場所と資材置き場を作ったという。どういうことなのか向かった。
新しい建物が見える。あそこだとすぐに分かる。
そこには、すでに水車を建てる準備をしていた。
「やあやあ。順調そうですね。ゲンゴ殿」
「おお。なんとこちらまで来られるとは。お忙しいでしょうに」
「いやいや。作業しながらで結構、少し話をしようと思ってな」
それでも気の良いゲンゴ。手を止め他の者達に指示を出し体を向けて話そうとする。
「どうかされましたか」
「村長のところに泊まらなかったそうだな」
「それは。申し訳ございません。せっかく用意してくださってたというのに」
「いえいえ。良いのです。人の家に泊まるのは気が引けるでしょうから」
「だそうだ。咎めるつもりではなく、どうやってそんなに早くに建てれたのだと思ってな」
手招きされ建物の中に。
そこは、簡単に区切られたひとつの建物だった。
職人が住むための住居区画は段を作ってある。一方、資材置き場は段差を作らず。足や材木を引っ掛けたりすることを防ぐため敷居の段差は無くし、ツネタロウが通っても屈まずに入れるような高さにしてある。厠は、一般的な肥溜めの深さと大きさよりも一回り小さいものとしその上に厠を作った。手早く作るため穴掘りと板で囲うものを採用。
食事は、村長で準備したのを運ぶ。または、村長宅でいただく。初日は、持参した弁当で賄った。
初日は、物資を運び建物を建て厠のための穴掘りと板囲いを設置。そのために、3倍の人数で対応。3分の2は日帰りとなった。残りの人数で、水車小屋を作るという。
今いるのは、その水車小屋を作るための職人が準備をしているところだった。
「人夫に金がかかったであろう?大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。うちの仕事を欲しいと来る他の大工に手伝わせてますので」
「だがその金はどこから出るのだ?」
「ホマレダ様にいただいたものだけで足ります」
「いやいやそういうわけにも。材木もあるだろう?」
「材木は近くの山で調達しますので。村長に助けていただきました」
「製材はどうするのだ。そのままでは使えまい」
「それも村長にお願いし少しくらいの歪みならそれもまた愛嬌として利用するつもりです」
「人夫はそれでもいくらか出すのだろ?」
「雑炊代くらいは出してますよ」
「それは安すぎだろ?足元見すぎて嫌われんように」
「ははは。そう見えましたか。そうではなく、まだ長屋の建設や武家長屋の仕事もあるでしょう。その時に手分けしてお願いするというだけのことです。他所ものの私らに当たるだけではジリ貧だとわかったのでしょう。先日のなんでしたっけ。あれ。あれ」
「入札のことか」
「そう。それです。入札で負けたものたちが批判ばかりでは食っていけないとして請け負う代わりに手伝うという意味で日雇いという形で来てもらいました」
製材は手慣れた職人でなければいけないということもなく、大工を雇うほどの金のない百姓たちは自分たちで木を切り出し材木として切り揃え、自分たちで建てることが多かった。製材技術は経験でわかるとして、村長に注文していたという。
「材木を手直しすることもありますが、人が住むわけではないので多少曲がっていても問題はないでしょう」
「そうだな。中で作業をすることはあると思うが」
「それでも、中の瓶が割れるような不格好なものは作りませんよ」
この水車で、ソバを挽くようになる。その挽く前後は瓶に入れて保存。
工程の流れやいつごろ完成するのかなどの話をした。
安心したツネタロウはその日のうちに戻ることとした。
「殿。手土産は渡さなくてよかったのですか?」
「ああ。恥ずかしながらこれでは足りんだろう。また改めて。そうだな。完成した頃にでも手渡そう」
片手くらいの職人だとばかり思っていたためヘイロクの店で売っている押し寿司を持っていっていた。足りなければ分けて昼にでもと思ったが、前日に今の3倍の人数が来ていたと知り申し訳ない気持ちになり持ち帰った。
屋敷に戻りキヌから叱られるのは言うまでもない。
たまのタダキヨ。すっかり阿呆な部分が削ぎ落とされいくらか洗練されているのがわかる。
言葉数は少ないが、言葉を発さなくてもある程度理解できるとタダキヨはいう。
元は友だったのだ。
5日連続投稿にお付き合いいただきありがとうございました。
今後は、いつもの不定期になる予定です。
明日も頑張りましょう
また見てね




