434話 和歌と献上
風呂とソバを馳走された後日の話。
春を象徴とする桜が働き手の心を踊らせる。
「義父上この花はなんというのですか?」
「これはヤマザクラと言ってね。イエヤス様も詠まれてるんだ」
咲く花を 散らさじと思ふ 御吉野は 心あるべき 春の山風
「とヤマトの国のヨシノというところにキレイに咲き誇る桜が名物なのだ。それを見て詠われた」
「素敵な詩ですこと」
「ああ。見入ったとこの時期になると見上げては思い返されておったものだ」
若葉と一緒に咲く桜のヤマザクラ。当時は、自生の桜として愛された。野生のためか江戸後期に流行するソメイヨシノと違い寿命が長いのが特徴。ヤマザクラの樹齢300年以上の樹木もあるという。
実家に戻り心から楽しんだシマ。お腹の大きくなったキヌを思いなんとか桜を見せてやりたいと願う。
手紙をツネタロウ宛に送り先日のおもてなしに感謝の言葉とキヌのお腹の子を心配する言葉。最後に、ヤマザクラの美しさを伝えた。
田川辺に 花も葉も添ふ 山桜 君と並びて 春ぞうれしき
「(シマ)姫。愛らしいことを。よほど気に入ったようだ。桜を愛でる余裕とキヨマサ殿との仲睦まじさが伝わる。そうだ、キヌさん。キヌさん宛にも詠まれておりますぞ」
千代をへて 根ざし固きや 山桜 若葉とともに 君も栄えむ
「お優しい詩ですこと。ええ。立派なお子を生みまするぞ!」
「では、お返しをしよう。だが、和歌に覚えがない。いかがいたそう」
「でしたら、無理に和歌にせず旦那様らしいお返しをされてはいかがですか?」
「私らしい。ですか」
オヤマから連れてきた大事な仲間とスミエを加えた者たちで会議。
コウキは再びオヤマへ赴いているため不参加。
参加者は、ヘイロク・ゲンゴ・宿屋の女将・スミエの4人。
「ということで、シマ姫へのお返しをしたいのだが何が良いかと思うてな。考えて欲しい」
いきなりのお題に腕を組み悩む。
「先生。シマちゃん姫宛にですか?」
「変な呼び方するではない。姫で統一しよう。そうだ。姫宛に送りたい」
「姫ですか。姫の好きなものはなんでしょう」
「姫は、可愛いものを好む」
「随分とざっくりとしてるねぇ。もっと。そう、反物の柄とかないのかい?」
「あーその辺は疎くて。キヌがいればわかったかもしれんが」
「殿。では、今から和歌を学びませんか。拙者に任せられよ」
「いや。できれば早く返したい。それはまたおいおい」
「でありますか」
「そうしょげるでない。頼りにしておる」
シマ姫へのお返しがなかなか決まらない。
自分の得意分野で考えるためかうまく決まらず頭が禿げそうなくらい悩んでしまう。
「だったらさ。手っ取り早く赤飯で良くないかい?めでたいという意味の他に魔除けの効果もあるんだって言うよ」
「うん。食べ物ならボクは得意だから。赤飯かぁ。先生も女の子が女になった時に祝ってたよね」
「あ。(女って)ああ。何人かにな。黒米を使って炊くというな。だが、シマの時にもやったからな。変な勘ぐりされるのもどうかと思わんか」
「たしかに。じゃあ先生。ヤマザクラで詠んでくれたんでしょ。だったらヤマザクラからなにかできないかな」
「ならば、ヤマザクラの花の形に型を作ることなら出来まするぞ」
「おおっ。その型でなにかを作るというのも良いな。赤飯を桜の形にするとか」
「面白そうじゃないか!」
「先生でもさ、赤飯だとそんなに形よく出来るかな」
「でしたら殿。紅白餅に型を当てるのはいかがでしょう」
これには全員が賛成した。
解散し各自で準備を進める。
ゲンゴは型を作る作業へ。
ヘイロクは紅白餅の準備。
女将は紅白餅を入れる箱を。
スミエは戻り本来の仕事へ。
ゲンゴは形を作るため試作を彫る。それをヘイロクへ持ち込む。
ほどよい型が出来ず悩んでいると、鋳物のヒョウタに持ち込み金型で作れないかと相談。
「いくらゲンゴさんの頼みでも鉄がもったいないよ。一回きりでしょ?」
「だな。貴重な鉄だ。それに口にするものだから」
「それは違うよ。口にするものでもキレイに洗えば使えるよ。ただ、たくさん作るんじゃないのならもったいないと思ってね」
「なるほど。失礼した」
「それに、木の型の方が温かみがあると思うよ。シマちゃんに贈るんでしょ?」
鋳物屋が4・5軒あったオヤマでは客の奪い合いだった。オヤマ最後の頃は、鋤の刃として独占していたことから稼ぎが良くなる。ウツノミヤに鋤職人のスエキチと移ったことで稼ぎが段違いへ。今では、職人を郎姫団に頼み増員しても足りないほど忙しい。家族総出ではまったく足りない。
再度、桜の花の型をいくつかの形で彫り、出来上がったのをヘイロクのもとへ。
女将は竹細工が良いか紙に包むかで悩む。
「紙だと餅がくっつくと美味さが落ちてしまう。竹細工の職人さんはいるにはいるけど、どうも野暮ったいのよね。もっとこう。うーん」
女将はヘイロクを通じツネタロウに相談。
「だからさ。前におキヌちゃんの絵を書いただろ?あれみたいにさ、紙に絵を描いてもらったので包むんだ」
「でもさっき言ってたじゃないか。紙だと餅がくっつくかもって」
「ほら。そこはなんとか。ロウでも塗って」
「匂いが移らない?」
「では、包む紙と別に餅自体を懐紙で包むのはどうかな」
「うん。それだとあまり気張らなくていいんじゃない?」
「それで行くわ!」
女将の知り合いの絵師に表の紙に描いてもらう。
懐紙の手配は、女将の横の繋がりを利用する。
それから10日が過ぎた頃。ようやくというか想定以上に早く完成した。
紅白餅はヘイロク。
紅白餅に形を整えたのを木型にハメ、判子のように桜の形を付ける。
それらを女将の用意した表紙に絵と餅を包む懐紙を一緒に包んで完成。
その完成形をツネタロウは買い取り3人で分け合う。
「よくぞ作ってくれた。なにも手伝わずすまなかった。一両で良いだろうか。足りるか。足りなければ言って欲しい」
「何いってんのさ。充分すぎるほどさ。それより、早く献上してきな」
「そうだよ先生。ボクらの今できることをやったんだからさ」
「まだ改良出来るかもしれませんが、今はこれで」
紅白餅の包みは、シマ姫にだけ贈る。たった1つずつの紅白餅。なんとも贅沢な品である。
「シマ姫に献上いたしとうございます」
「うむ。これはなんだ」
「こちらは、紅白餅にございます。桜の詩を詠まれたことへのお返しにございますれば」
「ほう。それで、儂にはないのか?」
「あっ」
「ふっ。まぁいい。シマにこれを」
奥に控えていたシマ姫が出てくる。
「ありがたく頂戴いたします」
「姫。毒見を」
「大丈夫」
「毒見用にこちらをどうぞ」
「それがあるなら早く出しなさい!」
「あなたが叱る相手ではございません。控えよ」
「あっははぁ」
下がる侍女。
「では毒見は儂が致そう」
「さすがに殿に毒見など」
「いいから食わせよ」
包みに描かれた絵は、ヤマザクラが咲き誇り散る姿。
「美しい。素晴らしいですわ」
「ああ。イエヤス様の思い描いた風景が見えるようだ」
包みに描かれた桜の絵を想像。
一通り楽しむと表紙の下にさらに紙が出てくる。
「これは。懐紙?」
「はい。懐紙にございます。茶の湯での菓子にも使われる懐紙。これなら餅が紙に付くことを防げます。こちらの表紙と懐紙は宿屋の女将に依頼したもの。絵師は女将が依頼しております」
「なるほど。手が込んでいるな」
懐紙を開くと、紅白の餅が見える。
「なんて愛らしいのでしょう!義父上様。桜の花の形ですよ。きっと!」
「そうか。こういう形だったか」
「はい。型は大工の棟梁に頼んだものです。手先が器用な男でして。桜の花の形と依頼したところ予想を上回る形になりました」
「ずっと見ていたい」
「また作ればよいではないか。紅白餅とはお主」
「良いのですか?へへへ」
「だがその前に食べてみなくては、次に作るにも難しいであろう。いただくぞ」
「うふふ。義父上様ったら。よっぽど食べたかったのですね」
菓子切を懐より出し切り分けて食す。
紅白餅は、ウツノミヤに移ってすぐに民に配られたもの。それを献上の品にした。
「うん。美味しい。桜の下にいるみたい」
「これはなかなか。塩が効いてるな」
「はい。わずかに塩を入れて整えております」
「春になったらまた食べたいと思う品です」
「だが、ちょっと物足りんな。ほれ。シマ。サッテで食べた酒饅頭のように」
「中に餡が入ってました。ですがこれはこれで美味しゅうございます」
「だそうだ。よく出来ておったぞ。褒めて遣わす」
「ははぁ」
無事、シマへのお返しができた。献上に上がる前に紅白餅をヘイロクの店で受け取る。
余った餅に木型にハメた紅白餅を食べているが、ほぼほぼシマとマサズミの言葉と同じ。
違うとしたら中に餡が無いことくらい。
城からの帰りに、ヘイロクの店に立ち寄りキヌへの土産にした。
「ん~美味しい」
「キヌさんは、桜の形よりも餅の美味しさが先に来ましたね」
「あっ」
「良いんですよ。楽しみ方は人それぞれ。キヌさんの楽しみ方なのですから」
紅白餅の権利は、1両で買い取ったことにした。実際は、1両をツネタロウから支払われているが。
3人が望めば作り販売しても良いとした。
それを喜んだ3人は、すぐに取り掛かる。
修理亮奥方様へ献上の品。として売り出される。
女将は、ゲンゴに依頼し桜の花びらの形をした判子を作るよう依頼。
表紙に判子を押すことで桜の散り方を色々とできるようにした。
庶民向けには、内側の懐紙なしで包むだけと竹の皮で包むの2種類。
竹の皮のほうが僅かに高い。
土産物としても人気が高まった。
ヘイロクの店では、紙の包みではなく竹の皮で包んだだけの簡易な包装。
押し寿司と同じようにしてある。無駄を在庫を増やさないためにも簡易な包装で充分だと。
藩内で食す用に販売。土産にするものもいるが、人様への土産は宿屋の女将のほうが良いと勧めるほど。身内や自分用にはヘイロクの店で充分。また安い。庶民向けである。
瞬く間に、3人で作り上げた紅白餅は流行し夏頃にはエドに。秋前にはサカイに伝わっていた。サカイに伝われば全国に広がったと言っても過言ではない。
「ゲンゴだけ割りを食ってるのではないか?」
「なにを申します。私の本職は大工にございますれば。職人に任せております」
「そうか。それなら良いのだ。これからも頼りにしてますぞ」
ゲンゴは、同じ手先の器用な職人に売上の一割を受け取っている。
需要はかなりあり、型こそはまばらな発注も、桜の判子もまた飛ぶように売れている。一輪から花びら1枚だけのもの。二輪・三輪と複数のものと数多くラインナップとされる。
毎月新しいデザインが出てくるとしてこちらも流行である。
ゲンゴ主催の職人によるコンテストも開かれ優秀作品は特別に販売の許可を与え、その売値の一割をゲンゴに入れるかたち。
ゲンゴは棟梁であり商人ではないが、知り合いの商人に置かせてもらい販売手数料を支払っている。
それだけで飛ぶように売れており予約待ちである。職人の一点ものであるため予約してでも買いたいと言う。
判子の材質は、端材を利用している。そのため、壊れやすいため安く販売している。長持ちしにくいが手に入りやすいと喜ばれている。
お詫びとご報告
創作和歌の部分だけ、Google AIのジェミニに提案したのを作ってもらっています。
そもそもわたしに和歌のセンスが無いため依頼しました。
チャットAIを使用したことをお詫び致します。
また見てね




