アルト義兄様からのお誘い
「ジュリの作るクッキーは世界一だ!! 手が止まらん!!」
アルト義兄様は物凄い勢いでガツガツと食べている。
いくら出来立てが美味しいとは言っても、もう少し味わって食べて欲しいものだ……。
凄まじい勢いで食べられては私が食べる分がなくなってしまう。
「義兄様! 私もお腹空いているのですよ? 少しは残して欲しいですね」
「ジュリも遠慮せず食えばいい! 昔だったらガッツガッツ食べて俺と張り合っていただろう?」
「そ……それは……」
昔と今では違う。
特にアルト義兄様の前ではハシタない行為は避けたいと思っている。
なんでかは知らないが、謙虚でいたいと思ってしまうのだ。
「ジュリの作ったものに関しては遠慮してくれてても俺はかまわんのだ。その分食えるわけだからな!」
有言実行の男である。
遠慮などあるはずがない。
嬉しい気持ちもあるが、食に関してとなると話は若干変わってくるのだ。
「もう! 私も食べます!」
実際に他の人はどれくらい食べているのかは知らないが、少なくとも大食らいの男性と同じくらいの量は毎日食べている。
適度な運動も心がけているので筋肉も一般女性よりはついている方である。
おかげで、これだけ食べていても太らないのだ。
「ほう、普段のジュリに戻ったようだな」
「ハシタないとか思っているんでしょう?」
ついつい食い意地に負けてしまった。
クスクスと笑っているアルト義兄様にこのようなことを言われてしまってショックなのである。
「別にそうは思っていない。元気なジュリに戻ってくれて嬉しいんだ」
「え?」
「だってそうだろう。結婚して家を出てからというもの、ジュリの新居に行ったときも元気がなかったように見えた。しかも久しぶりに実家に帰ってきたと思ったらあのザマだった……」
まさかそんなに心配されていたとは驚きである。
アルト義兄様は頻繁に家に会いに来てくれていた。
それだけでも救われていたのだが、今回実家に帰ったことで更に心配をかけてしまったのだ。
まさか食い意地で褒められるとは思わなかったが……。
「そうだ、明日は俺も仕事が休みなんだ。気晴らしに出かけないか?」
「アルト義兄様と二人でですか?」
「もちろんだ。デートみたいだろ?」
「んー……」
嬉しいお誘いだが、少々悩む部分がある。
アルト義兄様は王都ではかなり知られている存在だと思うし、既婚者の私が男と二人で歩くのは少々抵抗がある。
妙な噂の火種をわざわざ作る必要がないのだ。
「出かけると言っても馬車で移動して、義父上の経営するレストランに行くというだけだが」
「行きましょう!」
デートというものだから抵抗してしまった。
だが、お父様の経営している店ならば昔からずっと二人で通ったりもしていたので馴染みがある場所だ。
義兄様も私のことを気遣って選んでくれたのだろう。
「もちろん好きなだけ頼んで構わない。今回は俺が全て払う」
「ありがとうございます。遠慮はしませんが良いのですか?」
「むしろ沢山食べるべきだ。……とは言っても、そもそものジュリの稼ぎなら金には心配する必要はなさそうだがな」
「お父様には負けますので」
「義父上と比べられるジュリが凄いと思うが。ところで追加のクッキーは作ってくれないのか?」
「あ……!!」
話に夢中になっていたせいで、気がついたら皿の上のクッキーが空っぽだった。
私の作り方の場合、一度に大量生産できるお菓子ではない。
エイプリル家ではどうしても少量になってしまうのが難点だ。
「また今度作りますね……」
「やはりエイプリル家にはジュリが必要だな」
「はいはい、掃除も洗濯もやりますよ」
変に思われることも多いが、私は家事全般が本当に好きなのだ。
エイプリル家では使用人たちと一緒に家事をすることが好きだった。
最初は仕事をわざわざ抱えなくともと、お父様やお母様に反対されていた。
だが、私は好きでやっていることが伝わったため、好きにさせてもらえるようになったのである。
「また使用人に指導するのか?」
「もうその必要はないでしょう……」
指導は勘弁してほしかったのだ。
ベルベットの件で少々懲りている。
しばらくは私のやり方で家事はやりたい。
「明日はレストランに出かけるわけですし、義兄様の靴でも磨いておきましょう」
「ほう、それは嬉しい」
義兄妹仲が昔みたいに戻ってきた気がした。
何かそれ以外にも変な気持ち?
妙なモヤモヤ感もあるが、今は特に気にしないでおこうか。
新作を投稿しましたのでお知らせ致します。
『【連載版】水の都の聖獣使い〜売り飛ばされた聖女は砂漠の国で幸せを掴む〜』
https://ncode.syosetu.com/n2493hf/
こちらも是非宜しくお願い致します。




