ガイル伯爵との会話
「ほう! あなたがあの有名なジュリアさんでしたか!」
「是非とも我が公爵家にも足を運んでいただきケーキを作っていただきたいものですな」
「ジュリア様が作られるお菓子、いえ、それだけでなく料理全てが世界一だと噂されていますよ」
貴族の人間や、更には王家の方々とも挨拶するたびに、私のことを絶賛してくるので恐縮である。
以前貴族家の下で料理教室を開いたのが最後だと思うが、噂が広まりすぎだ。
しかもクオリティがエスカレートしている。
「ははは……それはまたの機会に」
ここで首を縦に振ってはいけない気がした。
一度『はい』と言ってしまえばここにいる全員に作ることになりかねない。
食べてくれるのは嬉しいが、流石に疲れる。
そんな時、見慣れた貴族家の人間を見つけた。
すぐに声をかけにいく。
「ご無沙汰しておりました。メフィスト伯爵」
「これはこれはジュリアさん。ここでお会いできるとは」
「流石に緊張しています」
「ジュリアさんはそんな小さな器ではないと思いますけどね」
今話しているのは王都の土地の大半を管理しているガイル=メフィストさんだ。
このお方とは私の仕事柄よく話をするので仲がいい。
仲が良いとは言っても、メフィスト伯爵はお父様と同い年くらいなので、もちろん言葉は崩さない。
「ところでジュリアさんは、ザーガル氏と最近不仲だと聞きましたが……その後大丈夫ですか?」
少し小声で周囲に聞こえないように話してくれている。
もう大っぴらに公開されるのも時間の問題なのであまり気にはしていないが。
「家から逃げ出して、今はエイプリル家で過ごしています。いずれ離婚するかと……」
メフィスト伯爵は特に驚きもせず、むしろ当然のような顔をして静かに聞いてくれていた。
「やはりそうでしたか。ジュリアさんはさぞかし大変な生活を送られていたのでしょう。実はザーガル氏のご両親、ポルカ家のことでは色々と苦労させられていましたので、なんとなくは察しがつきます」
「いつも主人がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」
「いえ、ジュリアさんが悪いわけではありませんからね。しかしポルカ家の者達は、ジュリアさんとの婚約が決まった直後から随分と変わられましたな」
ポルカ家は元々資産家だが、お父様の融資を得て成立している家柄である。
最初はザーガルだけが人が変わってしまったのか猫を被っていただけなのかと思っていたが、どうやらポルカ家全体が変わってしまったらしい。
「今まではジュリアさんの顔に免じてポルカ家並びにザーガル氏の行動を許している部分もありました。ですが、もう遠慮することはなさそうですね」
メフィスト伯爵は領地の管理だけでなく、そこに住む民間人とも交流が深く尊敬されている。
おそらく遠慮しないということは、そういうことなのだろう。
とはいえ、私ももう止める気はない。
本当にザーガルには疲れてしまったのだ。
義兄様の無茶苦茶な制裁だけでなく、これは王都全体が制裁をやりそうなとんでもない事態になってきた気がする。
まぁ今はザーガルやベルベットのことは忘れてパーティーを楽しもう。
久しぶりに並んでいる料理をこれでもかというくらいにガッツガッツと食べていった。
これが私、ジュリアの本来の食欲なのだ。




