27「ダグラスとジェーンです」
「魔王様――いいえ、お父様。なぜ、サミュエル様にわたくしを嫁になどとおっしゃったのですか?」
ダグラスとジェーンの親子は、ウォーカー伯爵家の一室にいた。
カルが迎えにくるなら、それまでの間。こないなら一泊するように、部屋を用意してあったのだ。
もちろん、ジェーンの部屋は別に隣にある。
ジェーンはダグラスと話をするために、与えられた部屋ではなく、父用の部屋に足を運んでいた。
「なんだ、聞こえていたのか?」
「あまり隠す気がなかったようにも思われますが?」
「なんだよ、サムが嫌だってわけじゃないんだろう?」
「とても好ましく思いますが……」
「ますが?」
「いいえ、なんでもありません」
言葉を止めたジェーンに、ダグラスは追求しなかった。
ダグラスは、ほろ酔い程度だが、喉が乾いていたので、テーブルの上にあったグラスと水差しを手に取り、喉を潤す。
「ジェーン。俺はお前に感謝している。戦うことしか能のない俺を支えてくれているお前がいるから、俺は魔王として王として成り立っている」
「……お父様?」
「だが、父親としては娘には幸せになってほしい。それが、お前の母との約束でもあるからだ」
ジェーンの母は人間だ。
気立ての良い快活な女性だった。
種族、部族、一族と魔王の繋がりを持つために差し出された女ではなく、ダグラスが惚れた唯一の女性だった。
魔王と人間の寿命の違いや、一般人が魔王の、それも国王に嫁ぐなどありえないと断られたが、ダグラスは諦めず何度も通っては愛を伝え、相手が呆れて折れるように結婚を受け入れてくれた。
そして、すぐにジェーンが生まれ、すくすくと育ち、二十歳になる頃に魔族の血が目覚めて半人半魔として覚醒した。
その瞬間、準魔王級の魔力と力を手にしたジェーンだったが、強さには興味がないようだった。
しかし、変わり種のオーガである父の血はジェーンに強さをもたらし、気づけば準魔王の一角としてふさわしい実力を手に入れていた。
恐ろしいことに、その力も努力して手に入れたものではなく、成長過程で勝手に手に入ったものだ。
準魔王にもいろいろいる。
ある意味、魔王たちよりも癖がある奴らばかりだ。
準魔王の中で強いと言えば、まずダニエルズ兄妹が思い浮かぶ。
兄レプシーに対する執着も恐ろしいが、兄妹がひとつになることで一時的とは言え魔王に匹敵する力を振るうことができるということだ。
次に、ゾーイだ。速さに特化した騎士であるが、彼女の真骨頂は元聖女ゆえに使える浄化の類だ。これは実に魔族に効く。
続いて、ダフネだが、エルフの女王候補だけあってエルフ独自の魔法に長けているのだが、かつては少年を狂わす魔性の女としての悪名のほうが有名だった。
そして、カルだ。魔王遠藤友也の配下であり、忙しく各地を転々としている。相手が誰であれ、フレンドリーに接し、あっという間に親しくなってしまう。便利な転移魔法の使い手であるが、実を言うと彼女の実力は不明だ。経歴も、不明。謎の多い女だった。
そしてジェーンだが、ある意味ぱっとしない。しかしながら、一番の規格外と言えるだろう。ダグラスの贔屓ではないが、ダニエルズ兄妹とガチで戦っても勝てるはずだ。
もっとも、ジェーンとダニエルズ兄妹が戦う理由がないので、そんなことはあり得ないのだが、強さを求める魔王としては見てみたい気もする。
「お前の母親と俺は、約束したんだ。素敵な男とジェーンを結婚させるとな」
老いる前に、女同士の確執で命を奪われた妻は、最後まで娘の将来を気にかけていた。
本人は望まず力を得てしまい、だからといってその力を生かしてのし上がるわけでもない。
言い方を悪くすれば、無気力に生きているように見えたのだろう。
妻は、自分がそうであったように、愛する人を見つけて幸せになってほしい、そう言い残した。
「父親としては寂しくあるが、そのうち誰か恋人を連れてくるかと思っていたんだが……いつまで経っても誰も連れてこないじゃないか。仕事、仕事、仕事。手伝わせている俺が言うのもあれだが、色恋にももっと興味を持ってほしいんだがな」
「それでサミュエル様ですか?」
「拳を合わせてみて、いい男だとわかった。まだ若すぎるゆえに荒さも甘さもあるが、潜在能力は俺以上だ。嫁が少々多いが、俺も人のことは言えんし、俺と違って嫁たちが姉妹同然なのも好ましい。実際、どうだ?」
ジェーンは、手袋をはめた手で顎を撫でると、少し考えたあとで、口を開いた。
「サミュエル様は……可愛らしい方であると思います」
「珍しく、脈ありか?」
今まで何度か勧めてきた男は、みんな「興味ありません」で終わった娘だが、サムへの反応は今までと違う。
もしや、とダグラスは期待する。
「女らしくない男性のような見てくれのわたくしを好きになってくださるのなら、喜んで。――と、言いたいのですが、今はお父様の傍で執務やら何やら残っていますので、サミュエル様と交流する機会があれば、またその時に」
「……ま、そうだな。お前もサムもあと何百年も生きるだろうから、そのうち縁があるだろう」
「――そうであれば、嬉しいです」
最後の言葉を告げたジェーンは、美しい美男子のような顔ではなく、乙女のような表情をしていた。
もしかするともしかするかもしれない、と思うダグラスであったが、父親が余計な茶々を入れてなかったことになっても困るので、触れずにいることにした。
今回、新たな魔王サミュエル・シャイトに会いにきたことは間違いじゃなかった。ダグラスは、そう確信したのだった。
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