41「ジュラ公爵が本気出します」
イーディス・ジュラは、サムと出会った瞬間、痺れを思わせるような衝撃を受けた。
亡きロイグに雰囲気がどこか似つつも、はっきりと別人だとわかる存在感に息を呑んだ。
(――この子が、サミュエル・シャイト)
始めこそ、好奇心と少しの意地悪を考え、娘を嫁がせて縁を繋ぐか、自分が彼の子を産むか、などと冗談まじりで考えていた。
だが、実際に顔を合わせ、彼のあどけない笑顔と、ひとつひとつの行動を見て、一度抱いた感情に火がついた。
(――この子は確実にほしい)
なぜ、そのように思ったのか、理解はできない。
イーディスの感情が、かつての婚約者を思い出したせいか、それともサムにもっと違う何かを感じ取ったのか、とにかく彼が欲しかった。
(オフェーリアの婿に、なんて可能性のひとつとして言っていたけど、嫁に出しましょう。生まれた子をジュラ公爵家の跡取りにしてもいいし、下の子が婿を取ったっていい)
頬が熱く、胸が高鳴るが、お酒のせいではない。
むしろ、酒を飲まなければ、動揺を隠すことができないほど緊張と興奮に包まれていた。
とはいえ、最初からガツガツしてしまうと警戒心を持たれてしまうことはわかっているので、近所の親戚くらいの感覚で接することを心がける。
彼の笑顔、困った顔、呆れた顔が愛しくてならない。
時間が経つと、彼のわずかにあった警戒と緊張は解け、きっと親しい人にしか見せない顔と、口調を表すようになった。
同時に、彼を欲する気持ちが強く、とても強くなっていくのを自覚する。
(なぜこの子が欲しいのかしら? ロイグと結ばれなかったことへの意趣返し? いいえ、違うわ。そういう暗い感情じゃないわ。ロイグに似ているから? いいえ、それだけの理由で愛おしいとまで思わない)
遠目で見たときは、もし自分とロイグが結ばれていたらこんな子が生まれたのだろうか、と思いもしたが、今はそんなことはもう思わない。
いや、思えない。
(私がこの子を欲していると口にしたら、どんな顔をするのかしら? 大人としては、この気持ちを抑えるべきなのかもしれないけど――ちょっと難しいわね)
どんな形でもサミュエル・シャイトと繋がりを持てることができれば、きっとこの感情は満足するだろう。
しかし、一度抱いた気持ちを、表に出さないままでいることはきっとしこりが残ってしまう。
父親の話を聞き、笑ったり、困ったり、怒ったりしている彼の顔を見て、イーディスの我慢はついに限界に達した。
「さて、一番の問題を話し合いましょう」
「えっと、はい」
緊張気味に背筋を伸ばす少年に、自分の次に発する言葉でどのような反応をするのか考えただけで胸が高鳴ってしまう。
少しだけ勿体ぶるように間を置くと、笑顔を浮かべて口にした。
「私があなたの子を産むか、娘と結婚するか、どちらがいい?」
「んんんんんんんん!?」
やはり驚くのね、と予想通りの反応に満足する。
しかし、サムの次の言動で、イーディスは大きな衝撃を受ける。
「えっと、あのですね、その、ジュラ公爵は魅力的な方ですが、やはり父親の婚約者でしたし、なんと言いますか、世間体? 娘さんの場合だって、よくないでしょう」
急にモジモジし始めて、顔を赤らめたサムに、
(あら可愛い。というより、意外と嫌がってないのね。これは、押せば私とオフェーリア揃って嫁入りできるんじゃないかしら)
予想外の反応に驚きつつ、また違う一面を見せてくれたサムに胸の高鳴りが強くなった。
(――そういえば、この子のお嫁さんはみんな年上だったわね。ステラやアリシアたちはさておき、リーゼロッテとフランチェスカは結構年上だものね。それに、ウルリーケなんて二十五歳だったし、私とそう変わらないのね)
きっと心の声が第三者に伝われば、「いや、十歳以上離れているからだいぶ変わるよ」とツッコミがあったのかもしれないが、残念なことに第三者はこの場にいないし、そもそも心の声が外に漏れることもなかった。
(――決めた。押しましょう)
イーディス・ジュラは、サミュエル・シャイトを標的とし、彼を手に入れるために本気を出そうと決めた。
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