33「住まいのあれこれです」①
「はっはっは! お手間をかけたね! 知らなかったよ、天井に逆さに張り付くと次にどうしていいのかわからなくなるのだね! 天井を這いつくばって移動うる分には問題ないのだが、困ったものだ!」
「……困ったのはお前の言動だよ。というか、子供と一緒にいなくていいのか? あと尻を撫でるな」
天井に跳躍したサムは、ギュンターの襟首を掴んで着地した。
いつものスーツから埃を払いながら笑うギュンターは自然に腕を動かしサムの尻を撫で、揉む。
腕をサムに蹴られても気にすることはない。むしろ、ご褒美を受けたような喜んだ顔をしている。
「悲しいけれど、父上と母上がうるさいから公爵家に戻らなければならないのさ」
「……そりゃそうでろ」
「そうですわね」
「ええ、その通りです」
「冷たい! もっとこう、引き留めたり、寂しがったり、ぎゅんぎゅんしたりとあってもいいじゃないか!」
「いや、普通にクリーのことを考えたら公爵家の方がいいだろ。実家ではなくとも、クリーもここ伯爵家よりも公爵家にいる時間が長いんだし……あれ、あまり変わらないかな?」
よく考えれば、クリーもギュンターもよく伯爵家にいる。
ギュンターのコレクションルームも、自室も夫婦の寝室も伯爵家にあるのだ。
クリーに至っては、王都に来てからまだ一年ほど。
故郷のドイク男爵領から嫁いできたのは最近のことなので、どっちが過ごしやすいとかないのかもしれない。
むしろ、心身ともに逞しいクリーは妊婦であるときも平然とどこにでも行っていたので、気にしない気がした。
それでも、本人が気にしないのと、周囲が気遣わないのは違う。
「僕にもクリーママにも、ウォーカー伯爵家はもうひとつの実家みたいな存在だからね。今更、移動しなくてもと思うのだが、クリーママが僕の両親と孫の時間を増やしてあげたいなどと神のようなことを言うからね」
「神て」
「そういうサムこそ、君のお父上のわからせ屋敷を受け継いだのだから、そちらに移らないのかい?」
「わからせ屋敷ってなんだよ!?」
「ふっ、まだ家人たちは気づいていないかな。あの屋敷にあるわから――いや、僕の口から言うのはやめておこう。いつか知るだろう。あの屋敷の真実に、ね」
「言えよ!? 怖いよ! デリックたちがあの屋敷にいるんだぞ! ダフネだって、今はこっちにいるけど、頻繁に戻っているんだぞ! あの屋敷に何があるって言うんだ!」
「…………」
「おい、黙るな、マジで黙るな!」
譲り受けた屋敷の中に、どのような秘密があるというのか。
(……そういえば、お父さんが復活したってことは屋敷を返した方がいいのかな。あー、でも、お父さんはジュラ公爵家で暮らしているし。……あれを暮らしていると言っていいのか悩み物だけど)
「まあまあ、その話はいつかどこかでするとして、君の屋敷はもういつでも住める状態になっているじゃないか。僕も何度か見に行って、部屋を決めているんだが」
「勝手に決めんな! いや、なんというかデリックとダフネのおかげで、いつでも住めるんだよ。おじいちゃんも住んでいたこともあったど、最近は神殿の方に移っちゃったしさ。なんというか、せっかく旦那様たちの孫になる子が生まれたのに、住まいを移るっていうのも微妙かなって」
この一年の間に、「とりあえずウォーカー伯爵家へ」というくらいわかりやすい場所になってしまった、この屋敷だ。
王宮や神殿の距離もちょうど良い。
リーゼ、アリシア、ウルに至っては生家である。
フランたちも幼少期から何度も足を運んだ屋敷だ。
そんな居心地の良い場所から、元王弟の屋敷に移る必要はあるのだろうか、と悩んでいた。
「出ていけって言われない限り、このままここで生活していようかなーて思っていたりしなかったり」
「……サム様、さすがにそれは適当すぎ……いえ、その方がいいのかもしれませんわねぇ」
オフェーリアも、いまさら屋敷を移ることに若干の違和感があるようだった。
〜〜あとがき〜〜
「みんなの」ウォーカー伯爵家になりつつあることに、ジョナサンもグレイスは気にしておらず、むしろ娘たちがこのままいてくれるのは嬉しいと持っています。
サムのことも我が子同然ですし、孫とも離れたくない。
ただ、いずれ何かしらの戦いが起きた時に、屋敷が吹き飛ぶ日がくるんじゃないかと覚悟しています。




