29「陛下と公爵のお話です」①
――王宮。
クライド・アイル・スカイは執務室で書類仕事をしていた。
普段、傍に控えているローガン・イグナーツは孫が生まれたばかりなので休みをとらせている。
きっと仕事に身が入らないだろうと、予想した結果だ。
クライドもステラとサムの子供テイリーが生まれた時は心躍ったものだ。いや、実際に踊った。踊り狂った。腰を痛めるとは思わずに踊り続けた。
それくらい家族が増えることは嬉しいのだ。
「あの問題児ギュンターが父親になったというのも感慨深いものよね」
そう言って微笑みながら、ローガンに変わって書類の整理を手伝ってくれているのはイーディス・ジュラ公爵だ。
サミュエル・シャイトの父にして、クライドの実弟であるロイグ・アイル・スカイの婚約者であったが、当時の王位争いのせいでロイグが出奔したため婚約は一歩的に破棄された過去がある。
その後、イーディスは彼女を心から愛する男性と結婚し、子供を設けた。そのひとりが、オフェーリア・ジュラであり、サムの婚約者だ。
人生とは面白いもので、何があるのかわからない。
かつての婚約者の息子が自分の娘と婚約したことに喜んだイーディスの前に、神の使徒として復活したロイグが現れたのだ。
色々な感情があったイーディスはとりあえずロイグをわからせた。
わからせに、わからせに、わからせまくった。
今のイーディスは実に充実した日々を送っている。
長女はドン引きしているが、次女は見習おうと頑張っているので、ジュラ公爵家の将来は明るいだろう。
「クリーちゃんは私の手ほどきが必要かと思ったのだけど、必要がなかったみたいね。片田舎に彼女ほどの逸材が眠っていたと思うと、驚きだわ」
「イーディスよ、クリー様に対し、不敬な!」
「……あなたにとってクリーちゃんはどのポジションなのよ。まあ、エヴァンジェリン様と同じくらい一部から崇め奉られているのだけど」
愛の伝道師として、クリーは人気だ。
様々な夫婦、恋人の問題を解決してきた猛者である。
彼女は書籍を出し、朗読会、サイン会など精力的に行いファンも多かった。
「あの」ギュンター・イグナーツを射止めただけでも凄いというのに、ベタ惚れさせているのだ。
スカイ王国一の女傑といえば、イーディス・ジュラ公爵だったが、いずれはクリー・イグナーツに変わる日が来るだろう。
「一応、お祝いの品と手紙は送らせてもらったわ。伯爵家から公爵家に移動したら、顔を見に行こうと思っているの」
「きっと喜ぶである」
「私も負けられないもの」
「……それはどういう意味であるか?」
かすかに震えるクライドに、イーディスは艶のある笑みを浮かべた。
「そろそろオフェーリアたちにも弟か妹がほしいでしょうと思ってね。たくさん下ごしらえもしたし、そろそろ私も次の子を孕もうかと思って。できれば、それまでにオフェーリアが一人前になっていればいいのだけど、きっとサムとあれこれして赤ちゃんができるでしょうからしばらくは私が頑張るしかないわね」
「……まあ、その、なんだ。オフェーリアに関しては時間の問題ではあると思うのであるが、そなたはその、なんだ――ロイグは無事であるか?」
「無事ってなによ。失礼な。今は寝ているわ」
にぃ、とイーディスが笑う。
「神との戦いで二度目のわかれになるかもしれなかったでしょう。だから無事に戻ってきてくれたからつい、ね。使徒って素晴らしいわ。人を超越した存在だからこそ、体力も無尽蔵――かと思ったのだけど、私のテクの方が上だったようね」
「ひえぇぇぇ」
イーディスはロイグを寝ていると言ったが、厳密に言うと違う。
気絶しただけ。
そのまま力尽きたのだ。
「わ、我が弟に苛烈な責苦を……」
「ふふふ、逆よ。優しくねっとりと、ね」
「……っ、それは王家のテク女性版であるか!」
「私も王家の人間ですもの。男性版も全て網羅しているわ」
「幼少期から侮れぬ人物だと思っていたが、イーディス・ジュラ、そこまでとは――凄まじいビンビンであるな!」
ちなみに、王家のテクは綾音っちの娘であるアイリーンが開発しました。(復習)
次回からこのふたりで引き続き、真面目な話をします。




