49「母のパワーです!」②
サミュエル・シャイトは震えていた。
「あ、綾音さんが女王様になっちゃった」
「あれ!? 僕の耳にはお母様とお呼びって聞こえたんですけど、僕の耳がおかしいんですかねぇ!?」
「ノリが女王様とお呼び、じゃん!」
「……否定はしませんけど」
近くにいる友也がサムの言葉に突っ込んでから、自らの失敗を悟った。
綾音と嘆きのヘルミーナの戦いを見守りながら、その感想はないだろうと思う。
激情のランドルフは、嘆きのヘルミーナと綾音の戦いが終わるまで手をこちらと戦うつもりはないようだが、公言したわけではないのでレプシーとカリアンが警戒を高めている。
サムと友也は綾音の応援というわけではないが、戦いを見守り続けていた。
「サム、余裕がありますね。正直、綾音っちくんは」
「勝つさ」
友也の言葉に被せるように、サムは言った。
「綾音さんは勝つさ。勝つに決まっている。だって、ほら、あんなにイキイキしているんだから」
サムは笑っている。
よほど綾音の頭突きと、「お母様とお呼び」が気に入ったのだろう。
「では、綾音っちくんが神に勝利するのを待ちましょう」
婚約者である綾音を信じて見守っているサムがしゃんとしているのだ。友也も見習い、綾音を今まで以上に綾音を見守ることにした。
■
「……お母様、ですって?」
「ええ。別にあんたの母親になりたいわけじゃないけれど、誰かと言われたら私は母親なの」
怒りで歪んだ顔をする嘆きのヘルミーナに、日比谷綾音は胸を張って答えた。
「子を捨てたお前が何を言う!」
「気づいている? さっきからあんた、口調が乱れているわよ。最初の余裕あります、みたいな口調で話しなさいよ? それとも、もう余裕がないわけ?」
「子を捨てた女が、なにを母親だ」
「……あんたそれしか言わないわね。他に何かないの?」
呆れた顔をする綾音を睨みつけながら、ヘルミーナの手が自身の顔に伸びた。
まだ再生されていないため、回復魔法でもかけるのかと思えば、彼女は何を思ったのか自分の顔を爪で引っ掻き始めたのだ。
がりがりと耳障りな音が響き、血が舞う。
「……ちょっとあんた、なにを」
「お前みたいな親がいるからぁあああああああああああああああああああ!」
空気を震わすほどの大声だった。
魔力も乗せずに、よくここまでの声を張り上げることができるものだと感心してしまう。
同時に、綾音は察した。
――嘆きのヘルミーナは「親」に対し何か思うことがあるのだろう。特に、子を大事にしなかった「親」に。
「お前みたいな親がいるから、母親なのに子を捨てる親がいるから」
「私の子供に言われても、あんたに言われる筋合いはないわ」
「お前がぁああああああああああああああああああ!」
「はぁ、もう私の話なんて聞こえていないわね」
感情に任せて突進してくるヘルミーナを、綾音の拳が取られた。
顔に、鳩尾に、胸に、繰り返し拳を入れる。
冷静ではないヘルミーナは拳を対処することができる、されるがままだ。
それでも、目だけが爛々と輝き綾音だけを見つめていた。
「あんた怖いのよ!」
魔力を込めた全力の拳がヘルミーナの頬骨を砕き、その勢いのまま地面に叩きつけた。




