48「母のパワーです!」①
「うぉりゃぁああああああああああああああああああっ!」
綾音が振り下ろした聖剣は、嘆きのヘルミーナを袈裟斬りにした。
しかし、浅かった。
殺すつもりの一撃だったが、ヘルミーナを仕留めることができず、彼女は数歩後退して傷を押さえた。
「――よくも」
顔よりも身体の傷の再生を優先させるヘルミーナに、綾音が笑った。
「あら、そのみっともない顔を治さないの?」
綾音の嫌味に、嘆きのヘルミーナは血まみれになった顔をおさえて震え出す。
その震えは、怒りだ。
これ以上ない怒りを覚え、身体を大きく震わせていた。
「よくも、よくも私の顔を!」
「おえっ、目の前に汚い顔があったから反射で自衛しちゃったの。それにしても、気持ち悪い」
口の中に残っていた血を、綾音が吐き出す。
それでも不快感が消えないので、魔法で水を生み出し口をゆすいだ。
「あー、すっきり。できることなら歯磨きをしたいくらいだけど、今は戦いの最中だから我慢してあげる。お礼は言わなくていいわよ」
「日比谷綾音……なぜ、胸の穴がなくなっている。神としての力を使わないお前では、死んでいてもおかしくないというのに」
「我が子の愛の力よ!」
「――意味が、わからない」
「かわいそうな子ね。私はね、母親なの。生まれてくる息子と娘のためなら、神だろうがなんだろうがぶっ殺せるのよ!」
「戯言を! 息子と娘を捨てた女に、子供など」
「あんたが捨てたという子供たちのために戦うのよ!」
綾音が地面を蹴り、ヘルミーナに肉薄する。
服の胸元を掴み思い切り引き寄せ、まだ修復途中の顔に全力で頭突きを喰らわす。
「――ば」
ヘルミーナの額が割れた。
鮮血が舞い、綾音の顔を赤く染める。
対して綾音は獰猛な顔をしているだけで、額は無事だった。
てしてし、と綾音は自分の額を叩く。
「神様のくせに脆い額しているのねぇ。ごめんなさいね、これでまた顔の修復に時間がかかってしまうわね。せっかくだから、少し鼻の形を良くしてみたら?」
「……日比谷綾音……急に勇者としての力が上がりましたね。その力を持ってして、魔王に勝てず気の遠くなる封印をされた分際でよくほざきますね」
「そういう挑発は効かないのよねぇ。あんたこそ、そんな勇者にボコボコにされてみっともないわね! あははははははははっ!」
「日比谷ぁ、綾音ぇええええええええええええええ!」
「あんたの方が煽り耐性なんにもないじゃない!」
綾音が手を離していないことをいいことに、掴みかかってきたヘルミーナをそのまま巴投げした。
まさか投げられるとは思っていなかったのか、ヘルミーナの手が綾音から離れた。
飛んでいくヘルミーナと途中で目があった。
受け身も取れず、地面にぶつかったヘルミーナが衣服の砂埃を払うこともせず立ち上がる。
綾音もただ投げ飛ばしただけでどうにかなるとは思っていないが、プライドは十分過ぎるほど傷つけることに成功しただろう。
「お前は、お前はなんなんだ!?」
「――お母様よ!」
「は?」
意味がわからないという顔をしたヘルミーナに、自慢するように綾音は胸を張った。
「――お母様とお呼び!」
レーム・ダニエルズ氏「――くっ、なんて凄まじいママ力だ!」
ティナ・ダニエルズ氏「まるで、神のようなママ力!」
レーム・ダニエルズ氏「つまり、ママゴッド!」
ティナ・ダニエルズ氏「ゴッド・ママ!」
シリアス先輩「いや、後書き乗っ取らんといて!?」
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