43「綾音っちとヘルミーナの戦いです」②
「あら、腹部をすべて吹き飛ばすつもりだったのですが、さすが勇者、いえ、女神に至っただけあり頑丈ですね」
胸に大穴が空き、口と胸から大量の血を吐き出した綾音がゆっくり前のめりに倒れる。
嘆きのヘルミーナが、綾音を受け止めくすくすと嗤う。
「勇者の力を解放して長時間戦ったことがなかったのでしょう? 戦いたくなかったというのが正しいのかもしれませんね。今のあなたにとって、ウルリーケ・ウォーカー・ファレル以外全力で戦うに値しないのでしょう」
綾音からの反応はない。
口から唾液と混ざった血を流し、虚な瞳をしている。
ヘルミーナは反応がなくとも構わない。
嗤いながら好き勝手に話し続けた。
「あなたは本来ならばもっと強いはずです。この世界において最初の勇者なのですから。私が見てきた他の世界の勇者の中でも群を抜いて一番です。本来ならば、ウルリーケ・ウォーカー・ファレルをも超える力があるというのに、恐れて使えない臆病者ですね」
綾音の肩を掴んで、自身の身体から引き離す。
かくん、と首が横に向き、口から血が垂れ続けていく。
大穴の空いた胸も再生する気配がない。
「あら。もしかして死んでしまったのですか? まあそれでもいいでしょう。日比谷綾音、あなたは自分が一番忌避していた、息子と娘を蔑ろにしていた勇者に戻り、死んだ。とても嘆いたでしょう。滑稽ですね」
嗤いながら、綾音の顔に自身の顔を近づける。
「あの世で息子と娘に呪いの言葉を吐かれるといいでしょう。あなたの嘆きを聞かせてくださいね。ふっ、うふ、うふふふふふふふふふふふふふ!」
我慢できないと笑いながら、さらに大きく口を開けて嗤おうとした時、綾音の瞳に光が宿った。
しかし、ヘルミーナは気づけなかった。
――次の瞬間、大きく口を開けた綾音によって、ヘルミーナの左目から鼻にかけて食いちぎられた。
「ぎぃやぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
女神のものとは思えない、耳障りな悲鳴が響いた。
「あー、しんど!」
いつの間にか胸の穴が閉じている綾音が顔を押さえて悲鳴を上げているヘルミーナを蹴り飛ばし、口の中にあった肉片を地面に吐き出した。
「好き勝手言ってくれたみたいね。あまり聞こえなかったけど! 私ね、母親なの。息子と娘に関して罪悪感もあるし、償いもしたいけど、――それをいちいちてめえに言われたくねえんだよ!」
いつの間にか地面に落ちていた聖剣を拾うと、口周りの血を腕で拭う。
「勇者? 女神? どうでもいいわ! 私は日比谷綾音! それ以上でもそれ以下でもないんだよっ!」
いつもの調子を取り戻した綾音が全力で聖剣をヘルミーナに向かって振り下ろした。




