42「綾音っちとヘルミーナの戦いです」①
ウルとグリムレンの炎が荒れ狂う最中でも、日比谷綾音と嘆きのヘルミーナは戦っていた。
ふたりは顔や手足に火傷を追いながら、再生を繰り返し、戦い続けていた。
そして、ウルが勝利した後も変わらず戦っている。
「――炎の魔女が死んだか。あとは貴様たちだけだ」
綾音は剣呑とした瞳をヘルミーナに向け、名もなき聖剣を振るう。
ヘルミーナは大鎌を振るい聖剣を受け止める。
すでにこの攻防は何度も行われている。
綾音の肉体は再生しきれない斬り傷がいくつもある。
ヘルミーナも再生できない傷から血を流し続けていた。
「グリムレンは満足して死んだのでしょう。彼女は魔法を愛し、魔法に愛されていた。そんなグリムレンを超えた魔法使いに殺されたのであれば、本望でしょう」
「貴様たちの自殺に私たちを突き合わせるな!」
聖剣がヘルミーナの首を薙ぐ。
しかし、女神の首を刎ねることはできなかった。
刀身が首の半分までしか届かない。
「――おのれっ!」
「あら、残念です。せっかく初めて首に剣が届いたというのにこの程度とは」
「貴様っ!」
「あなたは勇者としてこの世界に召喚されましたが、特別な武器を与えられたわけではない。特別な防具を与えらたわけではない。ただ、勇者である、それだけです」
「だからなんだと言う! 私は戦ってきた! 勝利してきた!」
「最後には妹に殺され封印されてましたけれどね」
「だからっ、なんだとっ、言うのだっ!」
剣に力を込めるが動かない。
ヘルミーナが首に力を入れて、刀身をこれ以上食い込ませないようにしていることはわかっている。
膂力であれば、負けていないというのに、なぜ首を断ち切れないのかわからない。
「ふふっ」
ヘルミーナが笑う。
「あなたの剣は、本来聖剣とは呼べぬ剣ですね」
「……だったらなんだと言うんだ?」
「私は知っています。この世界に来て、慣れぬ戦争と戦いに震える身体で参加し、死にかけた。そんな愚かなあなたを守ってくれた従者の女性――あなたにこの世界で初めて友情を示してくれた女性がいましたね」
「――――」
「彼女は愚かなあなたを守りました。守って死にました」
「やめろ!」
「彼女の家で代々受け継がれてきた剣。と言っても、それなりでしかないよくある剣です。その剣をあなたが聖剣にした」
「……だからなんだ! 私は、彼女に約束したのだ! 敵を取ると、そして約束は果たした。私は彼女と共に戦い続けると決めたんだ!」
「その程度の剣を聖剣にしたせいで、あなたは私の首を断ち切ることができないのですよ」
「首の半分を斬られていながらよくほざくな!」
「しかしあなたは恋に狂い、魔族を殺し続けた。仲間が死に続けた」
「お前の言葉程度では私の心は揺さぶられない。私は、仲間たちに約束をした。平和の世にすると。今の時代のこの世界を見ろ、瑣末な戦いはあるが、過去に比べれば平和だ。その平和を壊そうとする貴様たちを殺す。それが勇者としての使命だ!」
ふふふ、とヘルミーナが嗤う。
ゆっくりと綾音を胸を指で突いた。
「気づいていますか、日比谷綾音? あなたは私との戦いで、昔の、あなたが二度と戻りたくない勇者であった頃に戻っていますよ?」
「――――っ」
綾音がこの戦いで初めて大きく心を乱された。
そして、その心の乱れで生まれたほんのわずかな隙をヘルミーナは見逃さなかった。
――次の瞬間、綾音の胸の大穴が空いた。




