37「ウルとグリムレンの第二ラウンドです」③
「――勇者、ですって?」
スカイ王国から全ての炎が消えた。
大気中の熱までが奪われ、吐息が白くなる。
「……また不知火を使う気? 悪いけど、一度見た魔法なら先ほどのようにはいかないわよ」
炎の魔女グリムレンには、ウルの魔法へ対処できる自信があった。
神を殺す炎の剣。
凄まじい威力だった。
しかし、今のウルが取り込んでいる炎は先ほど比べて少ない。
いや、人間の魔法使いが取り込める量ではないが、先ほどの不知火の際の炎の取り込みを見ているので驚くことはない。
だが、気になるのはウルが自身のことを勇者だと言ったことだ。
勇者、どの世界にも、どの時代にもいる。規格外な生物だ。
生まれ持つ規格外な力には、その時代に世界を人々を害さんとする大きな敵を撃ち倒す役割がある。
グリムレンは、勇者を人とは呼びたくない。
努力せずとも、生まれ持ったスペックだけで強敵を倒してしまう勇者を人間ではなく化け物と考えている。
他ならぬ、炎の魔女グリムレンの討伐に勇者とその仲間がいた。数は気にならなかった。有象無象が集まったところでグリムレンの炎に敵わなかった。しかし、忌々しい勇者によって炎が抑えられ、散々痛めつけられた挙句殺されたのだ。
その後、神に至ったことで復讐を遂げたが、勇者だけは最後まで粘り続けた。
勝敗を分けたのは、努力と経験の差だった。
(――ウルリーケは生まれ持った規格外な魔力がある。その上で、努力を重ねている。そのくらい、戦った私が一番わかる。その上で、勇者ですって?)
身体が震えるのは、寒さのせいか、それとも――。
「おいおい、どうした? もしかして、怖いと言わないよな?」
グリムレンの震えに気づいたウルが挑発的な言葉を放つ。
ひとりだけ暖かそうな顔をして、と内心毒づきながら、寒さで青くなった唇で笑って見せた。
「そんなことあるわけがないでしょう? 私は炎の魔女よ! あなたの勇者の力があるからといって、怯える理由がないわ」
「――よく言ってくれた」
ウルが嬉しそうな顔をする。
「今、私はお前だけを見ている。他の神などどうでもいい。わかるか? 私と同じか、それ以上の炎の使い手であるお前に――夢中なんだ」
「嬉しいわね。私もあなたに、夢中よ」
先に仕掛けたのは、紅のグリムレンだった。
手をぱんっ、と合わせると、ゆっくり合わせた手を離していく。
手と手の間には、炎を纏った雷が暴れ狂っていく。
手を離せば話すほど、雷が暴れ狂い、炎が強くなっていく。
凍えていた大気が真夏のような熱を帯びた。
「私の奥義よ。――名を、炎雷火。ごめんさい、私ってネーミングセンスがないの」
「はっ、気にするな! 私もない!」
こうして短い会話をしている間に、炎を纏った雷が混ざり合いひとつの炎となった。
ウルは興味深そうに彼女の魔法を「視よう」として、魔法に拒まれ、目から血が流れた。
「つれないねぇ」
「私の魔法はお安くないの」
「じゃあ、仕方がねえか! お詫びに私の力を見せる番だな!」
「とても楽しみよ!」
ウルは己に胸に拳を当て、まるで身体から何かを引き出すような動きを取った。
「――聖剣抜剣――炎火の剣」




