29「綾音っちとカリアンが戦います」①
元勇者にして元女神である日比谷綾音と、サムの祖父であり規格外の強さを持つ女神エヴァンジェリン・アラヒーに仕える神父カリアン・ショーンの前に、白い異形の少年が立ち塞がった。
「ぼくたちはあいつらとはちがう」
「つよく、かしこいんだ」
「あら、よかった。会話が成立するのね?」
「同感です。言葉を交わせない相手を一方的に殺すことに心が痛みます。神々にいたずらに生み出された生命ならばなおさらです」
どちらも十代半ばの少年だった。
姿形はほぼ一緒であり、髪型が短い子と長い子という差しかない。
「魔力もすごいわね。その魔力使える? 苦しくない?」
「べつに」
「へいき」
「そう。ならよかった。あのね、あんたたちは子供だから、優しく言うけれどね」
距離はあるが、綾音はしゃがんで少年たちと目線を合わせた。
「私たちはあんたたちを絶対に殺さないといけないの。でもね、苦しまず、何が起きたのかわからないように殺してあげることがきるから、抵抗しないで受け入れてくれないかな?」
我ながらバカなことを言っていると綾音は思う。
それでも、神の都合で産み出された少年たちを苦しめて殺したくはない。
彼らの魔力は凄まじいが、身体の作りが決してその魔力を扱いきれないとわかっている。
だが、少年たちは使うだろう。
彼らは、力を使う代償を支払ってでも、力を使うはずだ。
何も知らされていないのか、知っても気にしていないのかまでは綾音に判断できない。
それでも、哀れに思う。
「綾音殿、あまり同情は……お気持ちはわかりますが、それ以上はいけません」
「そう、ね。残念ね。とても残念。こんな実力差もわからない子供たちを死兵にしてそこで余裕ぶった顔をしているブスな神は何を考えているのかしらね! 安心しなさい、あんたたち。あんたを生み出した神もきちんと殺してあげるから」
綾音の言葉が終わるよりも早く、片方の少年が肉薄し綾音の眼球を抉り取る勢いで爪を伸ばす。
瞬きすることなく目をあけたままの綾音の眼前に、爪がぴたりと止まった。
少年の腕はカリアンによって握られていた。
「綾音様、お戯を」
「ごめん、一回くらい攻撃されてもいいなって思っちゃった。駄目ね、息子と娘の手紙を読んだせいか、子供たちと戦うことってちょっと辛いわ」
「私も同じです。誰でも、子供を殺したいなどと思わない。ですが、この子たちは殺さなければならない」
少年の腕がカリアンによって握りつぶされた。
「ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
痛みがあるのか、絶叫をあげた少年がカリアンを睨みながら大きく交代した。
「どうやらひとりひとり、力も、頑丈さも違うようですね」
「そうらしいわね」
レプシーが戦った少年の身体はとても固かった。しかし、カリアンが腕を潰した少年はそうでもない。少し硬いくらいである。持ち合わせている魔力に対し、あまりにも脆弱だ。
「できるだけ時間をかけずしましょう、綾音様」
「ええ、そうね。カリアン様」
腕を再生させた少年と、もう片方の少年に向かいカリアンと綾音から仕掛けるのだった。




