28「レプシーの怒りです」
レプシー・ダニエルズの前には、サムと変わらないくらいの年齢の少年がいた。
全身白ずくめであることは他の少年少女と変わらない。
凄まじい魔力を持ちながら、その魔力を持て余しているところなど同じだった。
「初めまして。私はレプシー・ダニエルズ。君の名前を教えてもらってもいいかな?」
「――――――」
少年は何も答えなかった。
その代わりに、レプシーを見つめ、口から涎を垂らした。
――ぞくっと、背筋に冷たいものが走る。
レプシーは、少年から数歩距離を取ってしまった。
「――これは」
レプシーから穏やかな表情が消えた。
戦士の顔となった。
袖を捲り、首を回す。
少年はレプシーに何かするわけでもなく、ただ眺めている。
涎を垂らし、笑みを浮かべてながら、レプシーの一挙一動から目を離さない。
「お待たせしてしまって申し訳ない。全力で戦おうか」
魔力を高めることなく、レプシーは手刀を作り構えた。
少年が大きく口を開けると、地面を蹴った。
「うるがぁ!」
獣ような声を出し、レプシーに噛みつこうとする。
少年の歯は全て牙だった。
彼の顎が獲物の首に届くよりも早く、レプシーの右手によって首を掴まれ宙吊りとなる。
「私を超える魔力を持ちながら、そのような原始的な攻撃をするとは思わなかった。意外性というのであれば、効果はあったね。私でなければ、君の牙の餌食になっていただろう」
首をへし折ろうと手に力を入れる。しかし、少年には通じない。
「無意識に魔力を使っているのか、それとも規格外の魔力が勝手に君を境界しているのか、どちらだろうね?」
「ぐるっ、ぐうぅう!」
牙を鳴らしがなら、なんとかしてレプシーに食い付かんとしているが、少年の牙が届くことはなかった。
「もし勘違いならいいのだが、――もしかして君は私のことを食べ物だと認識していないかな?」
「うぅうううううううううっ!」
「ああ、やはり私のことを食べ物として見ているね。とても残念だよ。君は脅威だ。私はかつて復讐に囚われていた時に、誤ったことをしている民に力を与えてしまった。そのことをとても後悔しているし、犠牲になった人々、何よりもその民に申し訳ないと思っている。だから、君のような存在を許すことはできない。私の勝手な理由だが、申し訳ない。――全てを喰らう者」
レプシーが右手に魔力を注ぐと、少年の首から腹まで一気に消失した。
再生もせず、頭と下半身が地面に落ちる。
「――神々よ! お前たちは何をしたい! このような子供のような無垢な存在に多大な魔力を与え、何をしたいというのだ!」
レプシーの叫びに、嘆きのヘルミーナは笑うだけで何も言わなかった。




