109「サムとアルバートです」⑥
「あぁ……楽しかったなぁ」
アルバート・フレイジュは穏やかな笑みを浮かべていた。
彼は腹部から下を消し飛ばされ、地面に仰向けに倒れていた。
いつ消滅してもおかしくない状況下で、アルバートは満足していた。
「やっぱり強えな、サム」
「……アルもね。正直、大半の炎を斬り殺したのに火力がやばかったよ」
「そうだろ? 貰い物の力でも、頑張って使えればこれくらいはできるんだよ」
自慢げな顔をするアルバートに、サムもつられて笑った。
そんなサムも、左半身に酷い火傷を負っている。
戦闘衣がありながら、サムの上半身は焼かれてしまった。
回復魔法を施しているが、このダメージは後に引くだろう。
「……正直、炎の魔法だけなら俺よりも上だったよ。あまり大きな声では言えないけど、ウルとデライトさんの次くらいにはすごいと思う」
「そりゃ最高の褒め言葉だ」
アルバートの斬られた腹部から、ゆっくり塵になっていく。
このまま数分も持たないだろう。
サムは、アルバートの傍らに腰を下ろす。
「なあ、サム。悪い、手を握ってくれ」
「うん」
「すまねえ。死ぬのは怖くない。怖くないんだ。だが、二度とサムと戦えないことと、デライトとフランチェスカに謝罪できずに消えていくことが怖いんだ」
「アル……あんた」
アルバートの顔には、後悔が滲んでいた。
「俺はどうしてこんなクズだったんだろうな。憧れた人を苦しめて、馬鹿な奴らに煽られて調子に乗って、自分で自分の欲しかったものを遠ざけちまった。あぁ、サム、俺が馬鹿なことをする前にお前と出会えていたら……」
アルバートの瞳から涙が溢れた。
「最後まで悪いが、デライト・シナトラとフランチェスカ・シナトラに申し訳なかったと伝えてくれ」
「うん。必ず伝えるよ」
「ありがとう。よかった。想いを託せて、本当によかった」
もうアルバートの声は弱々しい、
今にも消えてしまいそうなほど、力がなかった。
「神との戦いがあるっていうのに、俺と戦ってくれて感謝している。これで、想い残すことなく逝ける」
「……アル」
「サム、お前は死ぬんじゃねえぞ。お前が死ぬ日があるとしたら、寿命が尽きる時だ。家族に囲まれて、穏やかな時間の中で、幸せだと思いながら死ぬんだ。わかった、な?」
「うん。俺は絶対、こんなところで死なないよ」
「……それでいい。それでいいんだ、サム。お前は、少し生意気なガキだ。何もかも背負う必要なんてない。周りに丸投げしたっていいんだ。時には、逃げたっていんだ。だから、死ぬな」
「――うん」
アルバートの想いはサムに伝わった。
サムは彼の手を握り締める手に力を込めた。
「時間だ、サム。神々に負けるなよ?」
「うん。全員斬り殺してやるさ」
「はっ、それでこそサミュエル・シャイトだ。――じゃあな」
一番の笑顔を浮かべ、サムの手を力強く握りしめたアルバートは散りになって消えた。
「アルバート・フレイジュ……あなたのことは絶対に忘れない。どうか安らかに」




