108「サムとアルバートです」⑤
サムの顔が真っ赤に染まり腫れ上がり、アルバートは脇腹が赤く黒くなるまで殴られ血を吐き出した。
どちらも大きくダメージを受け、拳が弱々しくなり、そして、力尽きて倒れた。
息を切らせて、地面に寝転び大の字となる。
アルバートが再生能力を使い、脇腹と内臓を修復していく。
サムが顔を中心に回復魔法をかけた。
「痛いんですけど。あんた、殴り合いができたんだね。てっきり雑魚を魔法で焼くくらいしかできないって思っていたんだけど」
「できるに決まってんだろ。どちらかと言えば、魔法よりも得意だよ!」
「それって魔法使いとしてどうなんだろうねぇ」
「お前だって、魔法よりも斬ることに特化しているじゃねえか!」
「……違いない」
「お互いに魔法使いとしてはどうよって、ことだ」
「あはははははは!
「ふ、ははははは!」
立ち上がったふたりが、再び拳を放った。
両者の顔面に、同時に拳が叩き込まれる。
「楽しいな、サミュエル・シャイト!」
「楽しいねぇ、アルバート・フレイジュ」
「ったく、死んだあとにこんなに楽しい戦いが待っているとか、くそったれだなぁ」
「人生なんてそんなもんだよ」
「はっ、言ってくれる!」
また拳を同時に叩き込む。
またサムの鼻が折れたが、アルバートの鼻も折れる。
「ていうか、何度も人の鼻を折りやがって! 可愛い顔が台無しになったらどうするの!」
「こっちだって自慢の顔だ! そんなに痛いなら、王都に帰ってギュンター・イグナーツにでも舐めてもらえ!」
「嫌だよ! クリー様に殺されちゃう!」
「はっ、そういえば、あれだけウルリーケにストーカーしていた変態が結婚して子供ができたんだってな! 世も末だ! しかも、あの変態が創造神らしいじゃねえか、そりゃこの世界に俺みたいなクズが生まれるもんだ!」
「全知全能じゃなくて、えっち健康だってさ!」
「納得できちまうのが腹立たしいな!」
「わかる!」
口周りを真っ赤にしたまま、サムとアルバートは笑った。
「まあ、あの変態はいい。さあ、続きだ、サミュエル・シャイ――――ああ、くそっ」
拳を振り上げたアルバートの身体が、塵となって少しずつ消えていく。
「おい? なんだよ、それ」
「俺の力を教えただろ。ひとつが不死だ」
「……うん」
「絶対的な不死じゃないんだが、死ぬにはいくつか条件があってな。それが、俺の心が折れるか、不死など知ったこたあないくらいのダメージを与えるか、俺が満足してしまうかだ。ああ、くそっ、満足しちまった!」
「アルバート、あんた」
「俺はな、サミュエル・シャイト」
「サムって呼んでいいよ」
「はっ、じゃあ俺のこともアルって呼んでいいぜ。親しい人……なんていなかったが、昔、友人にそう呼ばれていた」
「うん。アルね。わかった」
サムが魔力を解放した。
アルバートが目を見開く。
「すげえ魔力だな、サム」
「ありがとう、アル。じゃあ、決着をつけようじゃない!」
「おい、俺の話を聞いてなかったのか? 俺は満足したから、消えるんだよ」
「何を言ってるの! アルはここで消えるだけで本当に満足か? 本当に満足するのなら、俺に殺されて全力出しても勝てませんでしたってくらいまでやらないとだめでしょう!」
「――おいおい、マジかよサム。お前、なんて楽しいことを言ってくれるんだ! 最高だな、おい!」
アルバート・フレイジュは、サムとの戦いに満足してしまった。
それゆえに、肉体が少しずつ崩壊していくのだ。
心は折れなかった。
死を与えるほどの攻撃も受けなかった。
だが、満足したことによって、サムと己をぶつけ合ったことで満足してしまったゆえに死ぬのだ。
しかし、サミュエル・シャイトはそれを許さない。
満足するにはまだ早いというのだ。
アルバートの心が、ずっと味わったことのない感情で満たされていく。
「アル、すべての全力を持って決着をつけよう」
「いいねぇ、いいねぇ、最高だな! サムぅうううううううううううううううう!」
アルバートの力がすべて解放された。
力が炎となり、アルバートに纏う。
「うん。アル、全力でいくよ!」
サムの瞳が青く輝き、放出されていた魔力がすべて飲み込まれた。
「いくぜぇええええええええええええええええ! 俺の秘奥義っ、――陽炎!」
視界が揺らめくほどの熱が生まれた。
そして、地面から空から、真正面から炎が襲いかかってくる。
逃げ場などない。
焼き殺すことに全部を注ぎ込んだ、圧倒的質量の炎だった。
「――全てを、斬り裂く者」
サムを飲み込まんとする炎に、全力で腕を横に薙いだ。




