103「アルバートの理由です」②
サムは思考が停止した。
アルバートがその間に、襲いかかってくることはなかったが、サムはこの場で初めて間抜けに気を抜いてしまった。
「あ、あの、アルバートさん? 今のって、どういう意味ですか?」
「――説明してやろう。俺は、かつてデライト・シナトラに稽古をつけてもらったことがある。その時、その強さに憧れた。追いつきたいと必死に学び、訓練したが、追いつけず、道具に頼った。道具に頼ることを悪いとは思わない。だが、俺は、道具に頼った瞬間、デライト・シナトラに自分の力だけでは追いつけないのだと悟ってしまった。俺は荒れた。いつしか、憧れから悪い感情に切り替わった。どんなことをしてでも、倒したい。俺の方が上だと知らしめたい。そう考えるようになった。そして、デライトを倒した! 倒したんだ! だが、あいつは俺を見なかった!」
「…………」
「酒に逃げやがった! 俺を見ることもせず、憎むこともせず、酒に走った。屈辱だった。酒に俺は負けたんだ、と。だから、フランチェスカにちょっかいを出した。息子になれば、嫌でも俺のことを見るだろうからな! だが、フランチェスカも俺のことを見なかった。親子揃って――俺の感情がどうにかなってしまいそうだった時に、お前がサミュエル・シャイトが現れた」
アルバート・フレイジュとサムの目が合う。
彼の目には、不思議なことに、サムに対する憎しみなどの負の感情はなかった。
むしろ、強い闘志を感じ取ることができる。
「その後のことは、てめぇの方が詳しいだろう。デライトもフランも幸せになった。それだけだ。なあ、サミュエル・シャイト、俺はどうして素直になれなかったんだろうな? 実力で追いつけずとも、素直に慕うことだけだってできたはずだ。なのに、俺はできなかった、どうしてだろうな?」
「――――」
サムには、アルバートに対する答えを持っていない。
あくまでも聞いた話になるが、アルバート・フレイジュはデライトをはじめ今、サムが親しくしている家とは敵対関係の派閥に所属していたと聞いている。
その環境が、アルバートを歪ませたのかもしれない。もしかしたら、アルバートもウルのように弟子としてデライトを慕う未来があったのかもしれない。
だが、それはすべて「もしも」の話だ。
過去は変わらない。
「――悪かったな、つまらない話をしたぜ。ま、俺はいろいろ感情を持て余して、歪んだが、今、ここにいる。今の俺は、デライトを超えたサミュエル・シャイトと戦いたい、それだけだ。悪いが、付き合ってもらうぜ」
「うん、いいよ。存分に、戦おう。――アルバート・フレイジュ」
「はっ、いいね! いいね! 存分に戦おうぜ! ――サミュエル・シャイト!」




