96「ときめきです」
「兄さんが出るまでもありません。僕がこのままお相手しましょう」
「――そう急くな、ときめきのマニオン・ラインバッハ」
「……今、なんていいましたか?」
「そう慌てるな、と言ったのだよ」
「違います! その後です! 僕のことをなんて言いましたか!?」
「そっちか。――ときめきのマニオン・ラインバッハ、と言った」
「――なぜ!?」
急に名前の前に、「ときめき」とつけられたマニオンが動揺をする。
使徒になって初めて心が苦しくなるような不安を覚えた。
「何を言うか。戦いの最中ときめきと言い、神剣ウィーダルをときめかせたではないか。そんな君をときめきのマニオン・ラインバッハと言わなければ失礼になる」
「いえ、待ってください。話し合いましょう。僕なそんな名前は望んでいませんし、別に失礼にもなりませんから、やめてください」
「おっと、遠慮することはない。使徒に象徴する言葉を捧げることはまずないのだが、君は例外だ。神を殺せるのであれば、神を名乗っても構わない。私は気にしない。ヴァルレインも誇りに思うんだろう。――ときめきのマニオン・ラインバッハ!」
「……話聞かないな、この神!」
マニオンは挫けそうになったが、必死に耐えた。
愛情と戦いの女神ヴァルレインの使徒として負けるわけにはいかなかったのだ。
「ときめきのマニオン・ラインバッハよ!」
「だから! そんなにときめきだと連呼しないでください! このままだと僕の印象が!」
ちらり、とマニオンはサムたちを伺った。
サムは親指を立てた。
「いいと思うよ、ときめきのマニオン!」
「悪くないぞ、誇れ。ときめきのマニオン・ラインバッハ」
「いいじゃない、ときめいちゃいなさいよ!」
サムとウル、綾音がにっこり笑顔を浮かべていた。
どうやら「ときめきのマニオン・ラインバッハ」を気に入ったようだ。
「いいと思いますよ、ときめきのマニオン・ラインバッハ殿」
「ああ、親しみが持てる。ときめきのマニオン・ラインバッハ」
カリアンとレプシーが苦笑いしつつフォローしてくれた。
「いいじゃないですか! ときめきのマニオン・ラインバッハですよ! 僕なんてね! ラッキースケベとか変態大魔王とか散々な呼ばれ方しているんですよ! ときめきくらいいいじゃないですか! 嫌なら交換してあげますけど!?」
「……遠慮します」
友也に至っては、自身の散々な呼び方に比べたら「ときめき」の方がいいと言う始末だった。
さすがにマニオンも、ラッキースケベや変態大魔王などとは呼ばれたくないため、一瞬、「ときめき」もありなんじゃないかと思ってしまうが、すぐに気のせいだと首を横に振った。
「激情のランドルフ……あなたが余計なことを言うから、僕がときめきのマニオン・ラインバッハとして定着しそうなんですけど!」
「礼はいらん。君を認めた証だ。受け取ってくれ」
「……あなたはとてもポジティブですね。正直、羨ましい!」
マニオンは顔を惹きつかさせながら、怒りを覚えた。
絶対にこいつらを殺す。
そう誓った。




