94「マニオンの力です」②
マニオン・ラインバッハは、「初めて」神剣ストフォルテの力を解き放った。
愛情と戦いの女神ヴァルレインにとって大きな障害はサミュエル・シャイトだ。
彼と戦い倒すために、力を温存して戦っていたと同時に、手札を見せないようにしていた。
マニオンは決して器用な人間ではない。
人の身を超えた長い時間を鍛錬に費やしたが、特別な力を得てはいない。
そんなマニオンにとって唯一の特別が、女神ヴァルレインが生前から愛用していた「神剣ストフォルテ」だった。
神剣ストフォルテは、ヴァルレインが長い時間力を注ぎ愛用していた「神の剣」だ。
本来は、持ち主ではないマニオンには使うことができない。
しかし、ヴァルレインがマニオンの成長を喜び、褒美として授けるために今まで培った神剣としての力を抜き、新たにマニオンのために力を注ぎ込んだ。
こうして神剣ストフォルテはマニオン専用の剣となったのだ。
――生まれ変わった神剣ストフォルテに宿る能力は、力を蓄積すること。そして、放出するときに、力を倍にすること。
「は、ははははははははははっ、なんだ、それは! なんだ、その力は!」
神剣ウィーダルは笑った。
驚きながらも、楽しそうに笑った。
「さすがにそれはずるいぞ、マニオン・ラインバッハ!」
「いきます、神剣ウィーダル。決着をつけましょう」
「くく、くはっ、いいだろう。どうやらお前はサミュエル・シャイトと戦うことばかり気にしているようだな。私は前座か、いいだろう! 私を前座扱いしたことを後悔するといい!」
マニオンとウィーダルは静かに足を前に進めて、お互いの間合いに入った。
小細工など必要ない。
すべきことは、全力の一振りだけ。
足を止めず、ふたりは同時に踏み込んだ。
「神剣ストフォルテ!」
「神剣ウィーダルぅうううううううううううううううう!」
白銀の神剣と血色の神剣が交差する。
悲鳴のような音を立ててヒビが入ったのは、神剣ウィーダルの刀身だった。
マニオンの一振りは止まらない。
「負けてたまるものか! 私はすべてを注ぎ剣となった! 神剣に至ったのだ! 私の歩みは続く、まだ続かなければ」
神剣ウィーダルが己を鼓舞するように叫ぶ。
しかし、マニオンの振るう神剣ストフォルテが神剣ウィーダルの刀身を斬り断った。
「――あぁ」
そのまま神剣ウィーダルが寄生する肉体を袈裟斬りにする。
刀身と血飛沫を撒き散らし、神剣ウィーダルは地面に倒れた。
両断された肉体は再生されなかった。
身体の端から、塵となり崩れていく。
それは、神剣ウィーダルそのものも同じだった。
――神の死が訪れたのだ。
「……見事、マニオン・ラインバッハ。見事だ。私は最高の一撃を振るえた。お前がそれを上回った。不思議と悔しさはない。勝てなかったが、すっきりしている。敗北したのに気持ちがいい気分は初めてのことだ。礼を言う、私は剣となり剣として死ねる。本望だ」
「神剣ウィーダル。あなたに感謝を。僕はあなたと戦いまたひとつ強くなれた」
「お前の糧になれたのであれば、嬉しいことだ。願わくは、お前がサミュエル・シャイトと戦い勝利できることを……祈っている」
「ありがとうございます」
マニオンが礼を言うと、神剣ウィーダルすべて塵となり舞い消えた。
静かに黙祷を捧げたマニオンは、振り返り、戦いをずっと見守っていたサムを見た。
兄と弟は、口角をわずかに上げて、頷き合った。




