91「剣のウィーダルが目指したものです」
――剣のウィーダルは剣に憧れた人間だった。
ウィーダルはとある世界の貴族の家に生まれ、何不自由なく過ごしていた。
そんなウィーダルは、魔法に優れ、勉学に勤勉で、両親から期待されていた。
しかし、彼が学びの一環で出会い魅せられた剣の才能は残念ながら「そこそこ」程度だった。
大枚を叩いて名高い剣士から学んでも、業物の剣を集めても、剣の腕は一定のラインから上がらなかった。
血の滲む努力をした。
気づけば、成人し、結婚し、子が生まれ、孫も生まれた。
良き領主として領地を運営しながら、剣の上達のためにモンスターを狩り、犯罪者を狩り、戦争には積極的に参加した。
気づけば、英雄と言われていた。
子供も孫も、領民もウィーダルのことを誇りだと言った。
だが、ウィーダルはそれでもなお自分の剣術の技量が上がっていないことに不満を覚えていた。
そして、ついに――ウィーダルは一度として自らの剣の腕に満足できぬままその生涯に幕を閉じた。
――それでいいのか?
どこかから声がした。
強い意志の感じる、男の声だった。
――お前はそれでいいのか?
目を開けているのか閉じているのかもわからない漆黒の中で、ウィーダルは叫んだ。
「いいわけがあるか! 私は、何もできなかった! 剣に魅せられながら、私は満足する力を得ることができなかった! 何が英雄だ! そんな称号に何も意味がない! モンスターも、犯罪者も、戦争も、すべて私の技量を上げるための戦いであったのに! 私は、何も得られなかった……」
――ならば極めろ。
――己の欲望のままに、求めろ。
短い言葉を聞き終えると、ウィーダルは草原にいた。
老いて亡くなった身だというのに、若かりし姿を取り戻していた。
傍には、生前に愚直に振り続けていた剣が一振りだけ。
――ウィーダルは察した。神か悪魔だかわからないが、自分に二度目のチャンスをくれたのだと。
全盛期の肉体と、何ものにも縛られない自由を手に入れたウィーダルは、生前に我慢していた欲望を解放して斬った。
斬って、斬って、斬って、斬って、斬った。
そして気づいてしまった。
剣の技量を上げることではなく、自分は――剣そのものに見せられていたのだ、と。
幼いころのあの日、名高い剣士の技量ではなく、彼の持つ剣の美しさに心を奪われていたのだと。
自らが求めていたことに気づけば、行動するのは早かった。
剣が欲しいわけではない。
世界中の剣を集めても満足することはしないだろう。
――自分は剣になりたいのだ。
――剣そのものに成りたいのだ。
世界を巡り、様々な実験をして、たどり着いた。
時間は、五百年ほどかかったが、多くの失敗の果てにウィーダルは剣になることができた。
美しく、強く、気高くも無骨な剣に生まれ変わったのだ。
己の血肉と魔力をすべて注ぎ込み、すべてを剣に作り替えた。
――だが、剣は振るわれてこそ剣である。
――斬って命を奪ってこそ剣であるのだ。
ウィーダルは剣を振るう使い手は求めなかった。
自分を振るうふさわしいものなどいない。
ならば、自分で自分を振るえばいい。
準備はしてあるので問題はなかった。
はじめに――実験に使っていた救いようのない犯罪者に「寄生」した。
自在に体を動かすことができ、違和感もなく己の身体とした。
寄生主を変えて、多くの剣士を倒し、剣である自らを至高の剣とした。
――神剣ウィーダル。
それが、私の名前であり、正体である。
長い時間を剣として過ごし、神に至った――神の剣である。




