87「マニオンと剣のウィーダルです」①
「――愛情と戦いの女神ヴァルレイン様の敵を殺せ! ――神剣ストフォルテ!」
「我が血肉から生み出した剣――神剣神喰い!」
マニオンの白銀の剣と、剣のウィーダルの血色の剣がぶつかった。
「よく俺の一撃を受けたもんだ! と、言いたいが、その剣はヴァルレインのものだな。なるほど、神々と戦うために授かったのか。正直、拍子抜けだ」
ウィーダルはしらけたような顔をした。
だが、目はマニオンを侮蔑している。
紫がかかった黒髪を伸ばし、ひとつに結った神は一見すると三十手前の男性にしか見えない。
灰色の衣服もくたびれていて、旅をした剣士――そんな印象を受ける。
不思議と、神力をそれほど感じない。
世界の意思の干渉のせいで弱体化したのもあるだろうが、激情のランドルフや嘆きのヘルミーナに比べ、内に秘める力は小さい。
(――おそらく、剣のウィーダルの脅威は、剣術だか)
剣を冠に名乗るくらいだ、よほどの実力だろう。
マニオンは、ウィーダルを侮ることはしない。
相手は神だ。
使徒であり天使であるマニオンよりも格上だ。
だが、少々聞き流せないことを言われ、苛立ちを覚えた。
「――拍子抜け、だと?」
鍔迫り合いをしながら、ウィーダルを睨む。
「ああ、拍子抜けだとも。貴様の力の大半は、ヴァルレインから与えられた神剣からくるものだ! 違うか!」
ウィーダルが力を入れると、マニオンが弾かれた。
数歩後ろに下がってしまう。
「――なるほど、ああ、そうか。剣のウィーダル……お前はその程度か」
マニオンは心底がっかりした。
何を言い出すかと思えば、まさかそんなことを言われるとは微塵も思っていなかったのだ。
「なんだと?」
「なんだともなにも、お前にはがっかりした。神であるから戦いに誠意と敬意をもって挑んでいたと言うのに――まさかお前が相手の力量も見抜けぬ間抜けとは思いもしなかった!」
マニオンの力が跳ね上がった。
彼の顔は、失望だった。
確かに、マニオンはヴァルレインから神剣を託されている。
だが、ヴァルレインは甘い神ではない。
使徒になったからと神剣を授けてくれたわけではないのだ。
「神剣ストフォルテ――この剣は、ヴァルレイン様が愛用していたものだ」
「そうだ! その剣にはヴァルレインの力が」
「――静かに。僕がまだ喋っている」
ウィーダルの肩から脇腹にかけて、斬り傷が生まれ鮮血が待った。
「…………なにを、した」
間合いから離れているマニオンから急に一撃をもらったことに、ウィーダルの目が大きく見開かれた。
マニオンが大きく嘆息する。
「やはり、この程度だったか。まさか、本当に神々がこの程度とは思わなかった。察するに、お前たちの中で一番格下なのはお前か、剣のウィーダル」
マニオンの指摘に、ウィーダルは憤怒の形相を浮かべた。




