86「デライトは喜んでいます」②
「さてと、陛下……真面目にそろそろ王宮の奥へ移動しましょう。いくら陛下が結界術に長けていても、神々が相手じゃ限界がありますし、俺たちだってどこまで守り切れるかわかりません」
「――そう言うが、ウルたちが戦っているのに私だけが隠れているのはいかがなものかと思うのである」
「だーかーらー、あんたが世界の楔だから隠れていろって言ってるんだよ! ウルたちの戦いが無駄になるだろう! というか、さっきも勝手に王宮から出やがって、騎士団にぶっ飛ばされていたけど何をしていたんだ?」
とりあえずクライドを窓から離した。
デライトは常に周囲を警戒しているが、神がほどの力を持つ誰かが王宮の近くにいないはずだ。
かつてのデライトであれば、神々の力を気づくこともできなかっただろうが、竜や魔族に鍛えてもらったおかげで力の底上げがされたことで力を感じ取れるようになっていた。
あまりにも力量差があると、大きな力はまるで感じないのだとわかっていたが、神々の凄まじい力を知ってしまうと、知らないほうが幸せだったのではないかとも思えた。
鍛えずとも、神々の力を感じ取れるクライドはクライドで言動に惑わされてしまうが、やはり実力者の部類に入っているのだとも改めて思い知った。
王にならずとも、一角の魔法使いとして後世に名を残していた可能性だってある。
「マニオン・ランバッハを見つけたので、つい声をかけにいってしまったのである」
「――マニオン・ラインバッハって、サムの……弟で、ヴァルレインの使徒になった、あのマニオンか?」
「そうである」
「……よりによって神の使徒に単身で会いに行くんじゃねえよ!」
デライトは、騎士たちの目があるが、学生時代の時のように普通に接してしまっている。
敬語どころか少々荒めな口調でクライドに言いたいことを言うデライトに、騎士たちが驚いた顔をしたが、「ま、陛下とデライト様だし」と納得されていた。
「迷っていたようなので、つい放って置けず。若者を導くのは年長者の役目である」
「敵になっちまった相手を導いていては世話ねえな」
「はっはっはっ、まったくであるな!」
「笑い事じゃねえだろうが」
デライトが頭痛を覚え、眉間を揉んだ。
直接会っていないが、マニオン・ラインバッハは愛情と戦いの女神ヴァルレインの使徒として蘇っている。そして、サムと戦えるだけの実力を得ているのだ。可能性としてサムよりも強い場合もある。
神の使徒は世界の楔を破壊しようとしている。
その理由は、神を完全な状態でこの世界に降り立たせようとしているからだ。
ヴァルレインは、この世界を滅ぼしたいのではなく、この世界の唯一無二の神になりたいと願っているため、破滅をもたらそうとする戦神ディーオドールよりはマシだが、どちらにせよ世界の楔が邪魔であることは同じだ。
いずれクライドが世界の楔だと知られてしまえば、命を狙われることになる。
命を狙ってくるであろうマニオンに単身で声をかけることができるクライドは、大物なのか何も考えていないのか、付き合いが長くてもデライトにはわからなかった。




