85「デライトは喜んでいます」①
――スカイ王国王宮。
「――戦いが始まったのであるな」
スカイ王国国王クライド・アイル・スカイが、王宮の窓からサムたちが戦う気配を感じ取り憂いを帯びた顔をしていた。
不思議なことに、クライドの顔にはいくつか殴られた痣が残っている。
「陛下、あまり外に顔を出さないでくださいよ。いつ、どこで、誰が狙ってくるかわかったもんじゃありません」
宮廷魔法使いにして、王女レイチェル・アイル・スカイの夫でもあるデライト・シナトラが護衛としてクライドについていた。
世界の楔であることが判明したクライドのことを、騎士団長が中心となり守りの布陣を指揮し、単独で力を持つデライトやジョナサン、キャサリン、ゾーイが順番に護衛をしている。
万が一のことがあった場合に備え、引退した元宮廷魔法使い紫・木蓮が回復要因として現場復帰している。同時に、宮廷魔法少女のひとりに最近加わった、ミシャ・ファレルも攻防と回復に長けていることから王宮にいた。
「心配してくれるのはありがたいが、何かと危険があるのは王族ゆえもう慣れているのである」
「まあ、そうなんでしょうけどね」
幼い頃から王太子として良くも悪くも注目されていた。
善意もあっただろうが、悪意もあっただろう。
デライトもまだ彼が若い頃に、命を狙う者と幾度となく戦ったことがある。
もともと魔法使いとしての才能があり、モンスターに対しても優れていたが、対人戦が得意になったのはクライドを守って、多くの人間と様々な場所で戦ったからだ。
「命を狙われることは私にとっては日常である。王族として生まれた時から、であるな」
「なんというか王族とは面倒臭いですねぇ」
「サムのおかげで敵対貴族を排除できたので、最近は余裕があって楽しい時間であったのである」
「だからって、お忍びであちらこちらに出かけられたらこちらはたまらねえんですけどね」
クライドの言葉通り、王家を敵視していた貴族派貴族はサムのおかげで八割ほど排除できている。
残った二割は、服従した者、協力関係を築けた者、もう抗う力がない者、ある程度の必要な敵として残ってもらった者などだ。
少なくともクライドの世代では、貴族同士で争うことはないだろう。
「それにしても――ウルの奴楽しんでいやがる」
「まったくであるな。ウルにとって、世界の危機は些細な問題であろう。全力で戦える相手がいることが嬉しくてたまらないのであろうな」
「気持ちがわからないわけじゃないんですけどね。俺はとっくに抜かれてしまったので、受け止めてやることができませんでしたし」
ウルはデライトを心から尊敬しているが、弟子入りしてから早い段階で実力は抜かされてしまっていた。
ウルの全力を受け止めることができるのは、数人くらいだろう。
しかも、身内だ。
ウルがいくら戦いを好むとはいえ、身内と全力で命の奪い合いをする理由はないし、そこまで望んでいない。
そんなウルにとって、世界に危機をもたらす神々は――何をしても許される相手に見えただろう。
実際、神々とは生きるか死ぬかの戦いになる。
殺して咎められることはない。
「まったく、ずいぶんと追い抜かれちまったな。だけど、なあ、ウル。魔法は楽しいよなぁ」
魔力と炎が王宮から感じ取れたデライトは、ウルが戦いを全力で楽しんでいることを察し、笑った。
「まったく似た者師弟であるな! だが、それでよい! うむ、良きビンビンである!」




