79「遅れてきました」
激情のランドルフは、仲間であり友でもある紅のグリムレンが人間に敗北したことに驚きを隠せなかった。
「――グリムレンっ、今、治療を!」
嘆きのヘルミーナがグリムレンの駆け寄り治療に当たった。
炎の耐性があるグリムレンだが、火傷がひどく、右の腕と足が斬り落とされていた。
いくら弱体化しているとはいえ、神にここまでのダメージを与えることができるとはただ驚くしかない。
「ウルリーケ・ウォーカー・ファレル……この世界で一番警戒すべき人間であると知っていたが、やはり我々は人間というだけで侮ってしまっていたようだ。人であった時に、相手に一番されたくないことをしていたとは……なんと愚かな」
ランドルフが唇を噛んだ。
人間を侮った代償が、グリムレンの敗北だ。
だが、完全に負けたわけではない。
治療すればまた戦える。
次は殺せばいい。
それだけの話だ。
「……グリムレンは誇り高き魔女だ。ウルリーケの魔法に魅せられ、魔女として戦った。恥ずべきことではない。だが、挽回すべきことでもある」
「そうですね。私たちは生前死ぬまで戦っていました。敗北しても、這いずって生きながらえ、そして最後に勝利してきました。ならば、この世界でも同じことをするだけです」
ヘルミーナの言葉に、ランドルフと剣のウィーダルが強く頷いた。
敗北とは心が折れることか、死んだときだ。
一度や二度負けたくらいでは、本当の敗北ではない。
最後に目的を果たせれば、ランドルフたちの勝ちなのだ。
「……足と腕は繋ぎました。万全の状態ではないので、あなた自身も回復に専念してください、グリムレン」
声をかけたヘルミーナに対し、返事はないが、聞こえてはいるだろう。
今のグリムレンに、返事をする余裕がないのだ。
その証拠に、グリムレン自身も己の再生能力を使用し始めた。
今まではあまりにもダメージを受けすぎて、再生能力が働かなかったのだ。
グリムレン単身であれば、時間をかけていずれは死んでいただろう。
「グリムレンは満身創痍に対し、ウルリーケは腕と足……いや、右半身を負傷しただけか」
ランドルフはウルから一度も意識を外していない。
ウルは、地面に胡座をかいて負傷した右半身の治療をしている。
まだ戦えるというのに、追撃してこないのはきっとウルが神々との戦いを楽しんでいるからだ。
「ウルリーケ・ウォーカー・ファレルはこの場で潰しておいた方がいいだろう。たとえ、犠牲を払ってでも、潰さなければならない人間だ。同時に、悩んでもいる。彼女は戦神様が戦いたいと思う強者だ。さて、どうするべきか」
「悩むなよ、ランドルフ」
「ウィーダル?」
「俺たちは戦神ディーオドール様のためにこの世界にきたが、同時に俺たちも楽しむために来たんだ。一方的な力で蹂躙するなど戦士の行為じゃない。想定外とはいえ、強い敵がいることに心が躍る! 俺たちはいつだってそうだっただろう!」
剣のウィーダルは高揚していた。
神の日々に飽き飽きしていたのは戦神だけではない。
他ならぬ自分たちも同じだった。
剣士と魔法使いと違えど、強者と戦えることに喜びを感じる。
「次は俺だ。魔法使いを相手にするのであれば、俺こそが相応しい!」
剣のウィーダルが昂りを抑えられぬと、腰にある剣を握り、前に出た。
「――いや、待て。その前に待ち人が来るぞ」
ランドルフがウィーダルを止めたと同時に、――サミュエル・シャイトたちが転移によってこの場に現れた。




