76「炎VS炎です」③
花びらのような炎が舞った。
ウルの視界を埋め尽くす量だ。
空気の熱さが確実に増したことを理解した。
(ひとつひとつの小さな炎が、かなりの高密度だ。触れたら焼かれ、斬られるか。下手をすれば身体の中に入られて内側から酷いことになる。それに……グリムレンにもデメリットがあるが、おそらく任意で爆ぜさせることも可能なんだろうな)
秘められている火力と凶悪性は凄まじいものだが、美しい魔法だった。
かつてサムと一緒に日の国で見た桜のようだと、ほう、と感嘆の息を吐く。
ウルにはこのような映える魔法は使えない。
少しだけ、悔しかった。
――そして、花弁の炎がすべて炎の渦に飲み込まれていく。
天まで届く炎の渦が空気中の酸素と魔力を吸収して肥大化していく。
大渦となった炎は、炎の花弁を飲み込んでしまう。
花弁が爆ぜ、渦の一部が消えるが、すぐに元通りになる。
魔法に注ぎ込んだ魔力はほぼ同等。
制御に関しても差はない。
――だが、魔法そのものに差があった。
どちらの魔法も広範囲魔法だ。
炎で飲み込む獄炎に対し、千刃火は斬り刻み焼くという「苦しめる」魔法だ。
一枚の炎の花弁で肉体は裂け、焼かれるという苦痛を味わうだろう。
何度も、繰り返し、花弁が消えるまで。
しかし、その花弁はウルには通用しない。
「はははははははっ! 楽しいな! 何も気にせず魔法を使うって、やっぱり楽しいし、気持ち良すぎるだろう!」
「――否定はしないわ」
すでにいくつかの花弁がウルを襲っているが、彼女の肉体は炎への抵抗が凄まじく強いのだ。
生まれ持った素質などという安直なものではない。
ウルが時間をかけて、自らの身体を焼きながら魔法を学んだことで炎への抵抗力が生まれたのだ。
もともと得意な魔法属性に少なからず耐性があるのが魔法使いであるが、ウルの場合はその枠を超えている。
ウルリーケという規格外な人間から生み出された炎で焼かれ続けた肉体は、彼女と同等かそれ以上の炎ではない限りダメージを軽減する。
いや、してしまうのだ。
グリムレンの魔法は素晴らしい。火力も問題ない。だが、せっかくの魔法を魔力を千に分けたのがいけなかった。
おそらく、グリムレンは今までひとりで複数人を相手にすることが多かったのだろう。
信頼している魔法だったのだろう。
だが、ウルに対しては悪手だった。
グリムレンの高密度に圧縮された炎の花弁は、ウルを焼くが、殺せない。
致命的な一撃を与えることができなかった。
「見事な魔法だった。だけど、まだ全力じゃないだろう?」
「ええ。正直、あなたを殺すなら十分だと思っていたのだけど、炎に対しての抵抗力が凄まじいわね。私も耐性は持っているけれど、あなたほどじゃないわ」
「素直に褒めるじゃないか?」
「私は愚かではないわ。人間は嫌いだし、滅んでも心は傷まない。だけど、魔女として優れた魔法使いには敬意を払って戦うわ
「嬉しいなぁ。神に至った魔女に、優れたと言われてしまった。――だが、まだ私の魔法はこんなもんじゃないぞ?」
「奇遇ね、私もよ」
また笑う。
次はどんなことをしようかと、どんなことをしてくれるのかと楽しみでならない。
「せっかくだから、今まで一度も実践で使っていない魔法を披露しようじゃないか」
「――楽しみね」
「獄炎は師匠の十八番だ。ま、威力こそ私の方が強いが、それでも開発し、改良し、使いこなしたのは尊敬するデライト・シナトラがいたからだ。私は獄炎を超える魔法を作りたかった。既存の魔法じゃない、私の魔法を作りたかった」
ウルは、自分だけの魔法を欲した。
しかし、肉体が病に蝕まれ魔法製作を諦め、後継者の育成を考えた。
サミュエル・シャイトにすべてを託し、死んだが、不思議なことに第二の生を受けた。
だが、第二の生は退屈だ。
魔法がぬるすぎた。
気づけば世界をすべて魔法で下したが、興味も何も抱けなかった。
そこで余った時間を使い、かつてできなかった自分だけの魔法を作った。
尊敬する師匠の魔法をベースに、愛する少年のとっておきから発想を受け、制作に至った。
「――炎刀抜刀――不知火」
この場のすべての炎が消えた。




