73「ウルと神々です」③
(――――あり、えん)
激情のランドルフは地面に身体の半分を埋めた状態で、止まりかける思考を全力で動かしていた。
衝撃で意識が朦朧する。
身体強化をしただけの拳で、ここまでのダメージを負うとは思わなかった。
何よりも、拳が見えなかった。
気づいたら、顔面を殴られ、そのまま垂直に地面に叩きつけられていたのだ。
(――ありえ、ない)
まず、ランドルフの攻撃を容易く受け止めたことがおかしい。
その証拠にウルリーケ・ウォーカー・ファレルの背後には、ランドルフの一撃によって抉られた地面があった。
地形を変える一撃をなんの犠牲もなく腕一本で受け止めたウルリーケが異常に思えてしまった。
「神様さ」
軽々と少女の腕に持ち上げられてしまう。
首を掴まれ、小柄な少女に宙吊りにされるのはあまりにも屈辱だった。
「お前らのような上から目線の奴らが、最初に手を抜く癖があるのは知っている。何度もそういう奴に会ったし、そういう奴ほど本来の実力はこんなもんじゃないと言いながら死んだ。私に云わせれば手を抜いた上で敗北する程度がそいつの実力だと思うんだが、――お前も同じか?」
首を掴む手に力が入る。
か細い腕のどこにこれほどの膂力があるのかわからない。
身体強化をしたからといって、限度がある。
強化をすれば強くなるわけではないのだ。
強化しすぎれば、いずれ身体が悲鳴をあげて肉体が壊れるのだ。
だが、ランドルフを掴む腕の力は凄まじいものがあった。彼女がもし、その気になれば、このまま喉を潰し、抉り取るくらいできるだろう。
「本気を出さないならこのまま死ね。お前を殺しても神殺しは名乗らないから安心しろ」
そう言って見下すような目をしたウルを――紅の炎が襲った。
わずかに腕の力が緩んだので、ランドルフは無理やりウルの手を解き大きく後退し、咳き込んだ。
血の混ざった咳が止まらない。
回復に専念すると、呼吸が戻り、冷静さが戻ってくる。
「なにをやっているの、ランドルフ! こんな人間の小娘の後れを取るなんて!」
「……すまない」
「あなたのおかげで肉体を再生したのに、その代償にあなたがやられてしまうなんて笑えないわ!」
「その通り、だな。紅のグリムレン」
紅のグリムレン――そう呼ばれた女性は、外見年齢は三十歳ほどの真っ赤な女性だった。
赤い髪を伸ばし、スリットの入った身体の線がはっきりした真っ赤なドレスを身につけ、赤いヒールを履き、朱色の扇子を手にしている。
名のように赤い神は、炎に特化した神であった。
「でもおかげで私たちの肉体は再生したわ。忌々しい世界の意思に斬られた神力は失ったっままだけどもね」
舌打ちをするグリムレンが扇子を広げた。
彼女の続き、嘆きのヘルミーナと剣のウィーダルも立ち上がった。
神々が、世界の意思に与えられた大きなダメージから再生し切ったのだ。
「激情のランドルフ……あなたも早く肉体を今できる万全まで再生をしなさい。戦闘狂だかなんだかわからないけれど、仲間と足並みを揃えることもできない猪突猛進な小娘は同じ炎の使い手として私に任せなさい」




