67「ロイグとヘイゼルです」②
「サミュエルの力はそこまでのものなのですか?」
ヘイゼルの声は自然と震えていた。
孫が死んでしまうかもしれないと聞かされれば無理もない話だ。
「サムは元々強い子です。肉体と共にゆっくりと力をつけていくのであれば、もしかしたら問題なかったのかもしれません。いや、神々などと戦うことさえなければ、気にすることではなかったでしょう。――サムの成長が早すぎるのです」
サミュエル・シャイトは人間だ。
かつてウルリーケ・ウォーカーがそうだったように、大きな力には代償を支払わなければならない。
それが病だった。
だが、サムは人間から魔王に至ることで病を克服した。
そして、魔王であることをはじめとした力を捧げて戦った。
そこまでなら、問題なかった。
しかし、サミュエル・シャイトは鋼の力を持つ。
――そして、勇者でもある。
鋼の力は覚醒しつつあるが、ロイグがサムと戦った時にいくつか枷をつけたので完全な覚醒はないはずだ。
勇者に関しても、同様だ。
あとは、ロイグが命をかけて戦えばいい。それだけだったが、予想外の出来事が起きてしまった。
ウルがサムに枷を増やしてしまったのだ。
想定外だった。
枷を見抜かれていたことにも驚きだが、これ幸いと修行の一環として見て見ぬ振りをされただけではなく、枷を追加されてしまうとは思わなかった。
その状態で、サムは日比谷綾音、カリアン・ショーンという規格外な人物たちと戦うことで経験を得た。
弱体化した状態で、格上の相手と戦い続けたことで、サムは枷をつけていたまま想定外の強さを得てしまったのだ。
いずれ枷が外れてしまうだろう。
勇者として覚醒することはないだろうが、鋼の力を本当の意味で使いこなすだろう。
そして、それは、サムに大きな負担を与えてしまう。
――その前に、神々をロイグが倒すのだ。
幸いというべきか、戦神ディーオドールや愛情と戦いの女神ヴァルレインはまだ地上に降りてくることはできない。
そのため、世界の楔を破壊しようとする神々が現れたのだが、まだサムが己を犠牲にせずとも倒せるくらいの神々だ。
――しかし、もしも戦神ディーオドールと愛情と戦いの女神ヴァルレインが、力を削がれることを覚悟してこの世界に降り立ったとしたら、サムは戦い死ぬだろう。
「このままではサムは、戦いに勝って死ぬか、負けて死ぬかです」
「……そんな、あの子がどうして」
「だから、僕が戦います。戦いは過酷なものとなるでしょう。できることなら、僕もまたこの国に戻ってきたいと思っていますが、確証がありません。ですから、かつてできなかったお別れの挨拶を……いえ、出立の挨拶をしたいと母上に会いにきたのです」
ロイグは立ち上がり、ヘイゼルの手を取った。
「母上、行ってきます」
「……ええ、ロイグ。私の可愛い息子……ひとりの父親ロイグ・アイル・スカイとして息子のために頑張りなさい。私は、あなたを誇りに思います」
「ありがとうございます。――母上、さようなら」
ロイグとヘイゼルは、手を強く握り合いながら涙を流した。
かつて子供ゆえに良かれと思って悲しませてしまった母と、別れの挨拶ができたことにロイグは心から満足できたのだった。




