66「ロイグとヘイゼルです」①
ロイグ・アイル・スカイは、王宮の一角にある母ヘイゼル・アイル・スカイの部屋にいた。
椅子に座るヘイゼルの前に、ロイグは膝をついていた。
「……ロイグ? いつでも訪ねてきて欲しいと言ったけれど、膝をつきなさいなどと言ったことはないわ。さあ、立ちなさい」
「――母上。本日はお別れをお伝えに参りました」
ヘイゼルが身体を震わせた。
いつかこの日がくると覚悟していた。
十年以上前に他界し、葬儀も行った息子が「神の使徒」となって戻ってきたことに、理由があることはわかっている。
そして、いずれロイグが再び去っていくことも、母親の勘だろうか、察していた。
「神々がこの世界に降り立ったと聞いています。あなたはこの戦いで全てを投げうるのですか?」
「死ぬつもりはありません。しかし、私の目的のために必要であれば、喜んで命を差し出すことを決めています」
「――サミュエルのことですね」
「はい」
ロイグが王子としての身分を全て捨て、冒険者をしていた頃に出会ったメラニーとの間にできた子。
ヘイゼルにとって、可愛い孫である。
悔やまれるのは、サムの存在を少し前まで知らなかったことだ。
「ロイグ、あなたの目的はサミュエルに関してのことだと聞いていましたが、その詳細を教えてもらったことはありませんでした。あなたが聞いてくれるなという顔をしていたので、深く追求はしませんでしたが、もうそろそろ話してくれませんか?」
ロイグはゆっくり顔をあげてヘイゼルの顔を真っ直ぐに見た。
「僕は贖罪のために神の使徒となりました。サムとメラニーのために、使徒としての全てを使い戦うと決めました」
「……そこまでは聞きましたね」
「ええ。イーディスには言わされてしまいましたが口止めはしました。どこまで守ってくれるかわかりませんが、母上にもお伝えしますのでどうか他言せずにお願いします」
「――わかりました」
ヘイゼルが静かに頷くと、ロイグは「ありがとうございます」と礼を言い、告げた。
「――僕の本当の目的は、サムの代わりに神と戦うことです」
ヘイゼルは戸惑った。
その理由は父親として至極当然のことだ。
何よりも、あまり隠すようなことではない。
困惑するヘイゼルに、ロイグは言葉を続けた。
「サムは強い。しかし、強すぎる。その力は成長し、神々とも戦えるでしょう。ですが、その力は諸刃の剣でしかないのです」
「――まさか」
「サムの持つ全ての力が本当の意味で解放された時――戦いの勝敗は別に、力を使用した代償でサムは死ぬでしょう。僕は、愛しい我が子を守るために、戦わせないという選択を選びました」




