64「王宮は賑やかです」①
「――神々が来たのである」
スカイ王国国王クライド・アイル・スカイは椅子に腰を下ろした状態で、低い声を出した。
「我々は戦わなければならない。母である世界を守るために、家族を、友を、民を守るために今こそ立ち上がるべきである」
クライドは神々が世界に降り立ったことに気づいていた。
彼はサムのような規格外な戦闘能力はないが、風を読むことができる。
精霊たちの声も聞こえるため、世界の異変をいち早く知ったのだ。
「私は一国の王であるが、世界に住まうひとりの人である。今、立ち上がらなくていつ立ち上がるのだろうか! ――それゆえに、私を拘束する縄と鎖を高速で解くのである!」
そう、クライド・アイル・スカイは縄と鎖を使い椅子に厳重に拘束されていたのだ。
一国の王にこのようなことをしたのは、腹心であるイグナーツ公爵、ジュラ公爵、グレン侯爵、ウォーカー伯爵、シナトラ伯爵だ。
「…………陛下の心意気、とても感服します。ですが、お前が世界の楔のひとつだろうが! それを知りながらなぜ前線に立とうとする!?」
「王が先んじて戦わないで誰がついてくるのであるか!」
「時と場合によるだろう! 陛下が死んだら世界の楔が、それも大規模な楔が破壊されることになるのです!」
「私は死なぬ!」
「どのような根拠があってそのような自信があるのですか!?」
「それは、私がクライド・アイル・スカイであるゆえに」
「――おい、拘束を追加しろ。なんなら猿轡を噛ませてもいい。喋らせるのは危険かもしれん」
イグナーツ公爵は容赦無く、拘束具を追加した。
クライドの言葉は立派だが、だからと言って死が付きまとう最前線に送り込むことなどできない。
ときどき、鬱陶しい言動を繰り返すので死んでしまえと思うこともあるが、世界と国の未来がかかっている状態で、死なれては困るのだ。
「陛下が死んだら世界が大変になるとは……なんと言う罰ゲームだ!」
イグナーツ公爵の叫びは、この場にいる全員が思っていることだった。
「落ち着きなさい、イグナーツ公爵。陛下も自分が前線に立ったところで邪魔になることくらいわかっているわよ。ねえ、陛下」
「何を言っているのであるか、イーディス・ジュラよ。私が戦場に立つことで勝利を掴むのだ」
「誰か鞭を用意しなさい。えぐい棘がついたものがいいわ、あまりやりたくないけどしばらく静かにさせるわ!」
「暴力には屈しないのである!」
「暴力じゃないわ、陛下に対して、いいえ、幼馴染みとしての友情よ!」
ジュラ公爵の命令に対し、騎士たちが嬉々として「拷問用の鞭を用意しますね!」と走っていく。
さすがにクライドも青い顔をした。
「と、ところでロイグはどうしているのであるか? 我が可愛い弟ロイグ・アイル・スカイはまだ調教中であるか?」
「……ロイグは戦いに向かったわ」
「正直なことを言うと意外であるな。そなたがロイグを解放するとは思わなかったのである」
「解放なんて言わないでまるで私が拘束していたように聞こえるわ」
「……………………そ、そうであるな。監禁であったのである」
「それこそ失礼ね! ――軟禁よ!」
誰もが「ほぼほぼ同じじゃねえか!」と思ったが、イーディス・ジュラ公爵が怖くて口に出すことはできなかった。




