63「戦いの前です」④
「サム、身支度の準備はできているわ」
部屋に戻る途中で、子供を抱いたリーゼに出迎えられた。
「お姉様が飛んでいくのが窓から見えたわ。神々がこの世界に来たのね?」
「残念だけど、戦いは避けられないかな。この屋敷はギュンターとジェーンさんが守ってくれるから大丈夫。それにロボや白雪さんもいるしね」
サムの懸念は家族のことだ。
自分の手が届かない場所で何かあったらと思うだけでゾッとする。
それでも信頼する人たちがいてくれるからこそ、戦いに赴くことができるのだ。
「あぶぅ、あぶあっ、あぶぶぶびっ」
「シャルロッテもサムを心配しているわ」
「……戦いへの鼓舞に聞こえるのは俺の気のせいってことにしておこうかな、うん」
小さな手を握りしめてぶんぶん振り回すシャルロッテは、真っ赤な顔をしてサムに向かい何かを発している。
リーゼには心配の言葉に聞こえるようだが、サムには「ちゃっちゃと神々をぶっ飛ばしてこい」と聞こえるので不思議だ。
「さあ、部屋で着替えましょう」
「うん」
自室に入ると、アリシアとステラが戦闘衣を持ち待っていてくれた。
子供はフランと水樹が抱き抱えている。
花蓮も我が子を抱きしめながら、少々不満顔をしていた。
「サム様、どうかご無事に帰ってきてくださいね」
「心から勝利を祈っています」
「ありがとう、アリシア、ステラ」
宮廷魔法使いだけに許される青の戦闘衣を身につけていく。
サムの戦闘衣は特注であり、ダメージ軽減の効果もある。
裏地にはドワーフたちによって編み込まれた特殊な布のおかげでちょっとした刃物は通さない。
戦闘衣そのものが対魔法に優れている素材を使っているので、儀式的な衣装ではなく実践的な衣装であるのだ。
「ところで、花蓮はなんでご不満な顔をしているの?」
「まったく、自分も神と戦いたかったそうよ」
「花蓮は戦いが大好きだものね」
フランと水樹が苦笑する。
花蓮はもともと戦いが好きだ。
妊娠前はサムともよく手合わせしていたくらいだ。
だが、結婚し妊娠したことをきっかけに、過度な運動を禁止されてフラストレーションが溜まり続けている。
子供は愛おしく、とても大事にしているのだが、そろそろ暴れたいのだろう。
「……できればサムについていきたいけど、訛った身体じゃ邪魔になるだけだから我慢する」
「……我慢してくれて嬉しいよ」
フランの父デライト・シナトラがそうであったように、魔族や竜との交流で魔法使いとして高みに至っている。
花蓮も身重でなかったら、同じようにサムたちと共に戦い、強くなっていたはずだ。
いや、これは花蓮だけではなく、リーゼとフラン、水樹も同じだっただろう。
「サム、私の分まで神をぶっ飛ばしてほしい。私もいずれ、強くなるから」
「任せておいて。今は、子供たちのことを頼むよ」
「――うん」
花蓮の頭を撫で、彼女の腕の中にいう純連の額にキスをした。
身支度を整えたサムは、アリシアたちを抱きしめ、子供たちにキスをする。
最後にシャルロッテが突き出してきた手をハイタッチした。
「――よし」
やる気はこれでもかと漲っている。
家族から力をたくさんもらえたので負ける気はしない。
「――いってきます」
サムは変わらない笑顔を浮かべ、いつも通りに手を振った。
「――いってらっしゃい」
そしてリーゼたちもいつも通りに笑顔で送り出してくれた。




