60「戦いの前です」①
「あの、ウル。神殺しの時間だ、と言ってくれたのは良いんだけど何事にも準備というか段階があってね。まだ時間もかかるようだし」
「――いえ、時間はかかりません」
声と同時に、世界の意思が現れた。
いつも通りの白く美しい無表情な女性の姿をしているが、不思議とサムは彼女が疲れているように感じてしまった。
「神々は世界に降り立ちました。場所は、スカイ王国王都の郊外の地です」
「っしゃ! いくぜぇええええええええええええええええええ!」
「ちょ、ウル! まだ世界さんのお話が、って先に行くのはずるい!」
ウルは食堂の窓から飛び出してしまった。
神々に対しての警戒以上に、戦うことを楽しみにしているのはウルらしい。
サムも、ついずるいと言ってしまったので少し反省している。
世界の危機に対し、ウルもサムもいつも通りすぎた。
「神々は四人。元勇者や聖女などです。生前も想像以上の強さを持つ傑物だったようですが、神になりさらに強くなりました」
なかなか絶望的な言葉だ。
しかし、世界の意思の次の言葉には希望もあった。
「この世界に降り立つ前に、私の手で大きくダメージを与えました。神であることは変わらず、あなた方の強敵であることも変わりませんが、勝利できる可能性を高めることはできたはずです。――しかし、私ができることは限界です」
「ありがとうございます、世界さん。相手の数を知り、ダメージまで与えてくれたんだから、あとは俺たちが頑張ります」
「私は信じています。サムたちが神々を倒すことができる、と」
「――はい」
ゆっくり世界の意思の姿が薄れていく。
「少々力を使いすぎたので姿をこれ以上表すことはやめておきましょう」
「大丈夫なんですか?」
「問題ありません。力の温存をしたいのです。これからの戦いで、大地が破壊されたとして、ある程度であれば私が直しましょう。しかし、サムたちが死んでしまったら生き返らせることはできません。あなたたちの勝利を信じていますが、どうか命を大事にしてください」
「……はい。ありがとうございます」
世界の意思はこの場にいる全員の顔をひとりひとり見た。
「あなたたちは私の可愛い子です。どうか、無事に帰ってきてください」
それぞれが頷き、お辞儀をすることで応えた。
「そして、サム。言うべきか迷いましたが、あなたの力はまだ不完全です。まだあなたは本当のサミュエル・シャイトの意味を知らない」
「俺の、意味?」
「答えを言うのは簡単ですが、自分で知ることで意味があります。あなたはまだ強くなれるのです」
世界の意思はそっとサムの頬を撫でると、いつも無表情の顔に微笑を浮かべた。
「妻として夫の無事の帰りを待っています。どうか、ご無事で、あなた」
「――ちょ」
世界の意思は消えた。
なんというか、空気が変わった気がした。
今まではどこか荘厳さを感じさせる世界の意思が、急に妻や夫だなんて言うので、みんなの視線が痛い。
「きぃいいいいいいい! あの女め! 僕のサムに色目を使いおって! ゆ・る・さ・んっ! ぎゅんぎゅん激昂っ!」
「さすがサムお兄様ですわ! まさか世界の意思様まで娶られるとは、後世までサムお兄様の偉大なお名前が残るでしょう!」
「いや、あのね」
「ふっ、サムもすごいですね。僕がラッキースケベで悩んでいたのがちっぽけになるくらいの好色っぷりに、ドン引きです」
「……仮に、世界の意思様が本当にサムの妻になった場合、孫娘として接した方がいいのでしょうか?」
「サム……あんたもお盛んねぇ」
「ここにビンビン陛下がいなくてよかったな」
「みんな好き勝手言ってるぅ!」
緊張感はなくなり、肩の力が抜けたどろこから、全身が脱力した。




