59「神々が世界に降り立ちました」②
「存外、神々というのは丈夫にできているのですね」
「言ってくれるではないか、世界の意思よ! こんな無様な姿を晒しているのだ、言い訳などしない。だが、このくらいの死戦は人間であった頃に何度も潜り抜けている!」
激情のランドルフが世界の意思を睨んだ。
会話の最中に再生能力を使うことを忘れてはいない。
この世界は魔力に満ちている。
ならば、先ほどとは違い、再生能力も動く。
「なるほど。あなたは、かつてどのような理由でその視線を潜り抜けたのですか?」
「何を急に」
「個人的な興味です。参考までに教えてください」
「……世界の意思が、個人的な興味、か。まあ、良いだろう。俺の世界は争いしかない世界だった。この世界のように国々はあっても、人は欲深く愚かで醜かった。何度も何度もくだらぬ理由をつけて戦争を起こし、多くの人が死んだ。多くの人が泣いた。だから、私は愚かな人間を全て殺すことに決めた。家族を、友を失った復讐だった」
「あなたも苦労していたのですね、激情のランドルフ」
「――別に不幸自慢をしたいわけではない。ただ、そうだったというだけだ。私のような境遇は、どの世界にも、どの時代にも当たり前のように転がっているよくある話だ」
ランドルフはお世辞にも幸せとは言えない人生を送ったが、不幸だったわけではない。
家族がいて、友がいて、失ってしまっても、心にいた。
すべての相手に復讐できたわけではなかったが、結果は満足している。
「――ひとつ、疑問なのですが」
「なんだ?」
「あなたは家族を失い、友を失い、復讐した。争いをする者を醜く愚かであるとも思っている」
「だから、なんだという!」
「だというのに、あなたはこの世界で戦うのですか? これから起こす戦いで家族を失い、友を奪われ、泣く人々がいても気にならないのですか?」
「――――――それは」
ランドルフの言葉が止まった。
他ならぬランドルフ自身が、世界の意思に対し答えを口にできずに動揺を見せた。
「ランドルフっ! 惑わされてはいけません! 世界の意思は自分の世界を、自分自身を守るために私たちを敵として見ています! 精神的な揺さぶりをしてくることは想定していたではありませんか!」
「――――っ、ヘルミーナ。傷は」
「あなたのおかげで再生できました。ただし、神としての力の大半は失ってしまいましたが……世界の意思は想像していたよりもずっと厄介極まりないものでしたね」
ヘルミーナの言葉に、ランドルフの心が落ち着いていく。
彼女の傷が癒えていることに安堵すると同時に、今、浮かんでいた感情が消えた。
「世界の意思よ。あなたが我々をどうにかしようと必死なのはわかるが、もう時間だ」
剣のウィーダル、紅のグリムレンも傷を癒し立ち上がった。
「あなたの一撃は素晴らしかった。我々でなければ死んでいた。同胞たちもこうして立ち上がった。神と名乗るには力を失いすぎたが……それでもあなたの配下を蹴散らし楔を破壊するくらいはできる」
「……とても、残念です」
世界の意思の姿が薄くなっていく。
「ひとつ訂正を。私に配下はいません。これからあなた方が戦う者は、この世界を守ろうとする誇り高き戦士たちです」
「――楽しみだ」
「そして、サミュエル・シャイトは私の夫です」
「ほう。それは楽しみ…………うぇ?」
世界の意思はそう言い残して消えた。
残されたのは、一番の敵だと認識しているサミュエル・シャイトが世界の意思の夫であるという驚愕の事実だ。
「……サミュエル・シャイトが好色であることは神界まで轟いていましたが、まさか創造神だけでは飽き足らず、世界の意思にまで手を出しているとは……なんと汚らわしい」
嘆きのヘルミーナが嫌悪を浮かべた。
「……この場合、ご祝儀くらい送っておくべきだろうか?」
「おいおい、待てよ。手持ちがないぞ」
「同じく」
激情のランドルフは敵とはいえ、世界の意思に一定の敬意を払っているので彼女が結婚したのであればお祝いを送るべきかと悩む。
剣のウィーダルと紅のグリムレンはそれぞれ財布を出したが、あまりお金は入っていなかった。




