58「神々が世界に降り立ちました」①
「はぁ、はっ、はぁっ……おのれ、世界の意思め。肉体を持たぬあやふやな存在でいながら、よくぞここまで……我々を疲弊させたものだ」
激情のランドルフは左腕を失い、全身に裂傷を作り血を流しながら、息も絶え絶えとなっていた。
再生能力を全力で使用するが、再生速度があまりにも遅い。
「ヘルミーナ! 嘆きのヘルミーナ! 生きて、いるのか!」
世界の狭間に倒れている同胞たちに、ランドルフは必死に声をかけた。
「……生きてい、ます。ただ、再生能力が、遅いのです」
「……くっ、私と同じか。再生に集中するんだ」
「は、い」
同胞たちと同じようにランドルフも倒れ、動けない。
世界の意思が放った一撃は、神を傷つける一撃だった。
手を抜いていたのか、それともあれが全力だったのか、不明な点は多いが、耐えることができたのは間違いない。
そして、世界の意思は一撃を放ち、消えた。
「……なるほど、これが世界に無理やり干渉しようとした代償か。実に面白い。確かにこれでは、誰も不用意に干渉などできぬな」
ランドルフは上位の神だ。
もしこれが自分たちよりも力が弱い神であったら、先ほどの一撃で殺されていただろう。
「今は、回復に専念したいが……駄目だ、世界の間には神力も魔力もない。防御に全力を使った今の私は緩やかな、再生しかできない。――ならばっ、予定通りにあの世界に降り立ち再生に努めればいい!」
ランドルフは決意すると、早かった。
わずかだが再生が進んでいたので、死に至ることはない。
震える身体に鞭打って立ち上がると、嘆きのヘルミーナを担ぎ、少し離れた場所で倒れている剣のウィーダルと紅のグリムレンを襟首を掴んだ。
「返事はいい。とにかく再生に専念し、命を繋ぎ止めろ」
ランドルフは世界に干渉を始める。
ここでまた世界の意思が現れようものなら、自分たちが敗北するだろうと覚悟していたが、彼女が姿を現すことはなかった。
「――運は我々に味方した。行くぞ!」
干渉を強めたランドルフたちが世界へ入り込むことに成功した。
――白い光に包まれたランドルフたちは、雲の上にいた。
「世界め、随分な嫌がらせをしてくれる! いくら我々が神でも力を消費した今ならば、この高さから叩きつけられれば無事に済むまい!」
ランドルフは世界に満ちる力を集めた。
雲が消え、青空が広がる。
最初に、死にかけているウィーダルを治癒した。
全快にすることはできないが、命を確実に繋いだ。
次に、グリムレンの千切れかけていた四肢を繋いだ。
あとは彼女の再生能力で問題ない。
最後にヘルミーナの腹部の裂傷を塞いだ。
血の塊を吐き出す彼女の呼吸が安定したことを確認し、安堵する。
ランドルフは三人を抱えながら、自らの再生をすることなく地面にゆっくりと降りる選択をした。
ランドルフが一番ダメージが少なかったのは、ヘルミーナが庇ってくれていたからだ。
その恩に報いるために、力を振り絞り、地面に静かに着地した。
「はぁ、はぁはぁ、はっ、世界よ、我々の勝ちだな」
誰一人として失うことなく世界に降り立ったランドルフは、いつの間にか目の前にいた世界の意思に向かい、笑った。




