50「神々が動き出しました」③
「私は世界の意思。私はあなたがた神々を拒絶します」
世界の意思に対し、神々は敬意を払うお辞儀をした。
「お初にお目にかかる、世界の意思よ。私は激情のランドルフ。戦神ディーオドール様に使える神です。まさか世界の意思が人の姿を取り、目の前に出てくる日が来るとは……長く生きていますが、初めてのことです。よほどあなたの世界は良い世界なのでしょうね」
世界の意思が人の姿になり、誰かに干渉することはない。
他の世界の意思とは、もっとぼんやりしたものだ。
世界を守る、人々を守る。
そんな世界の想いは、世界そのものであり、言ってみれば感情のような見えない存在だった。
しかし、サミュエル・シャイトが住まう世界では、世界の意思が人の姿を取り、人々に干渉できる。
それだけ、世界の想いが強く、世界としての質も高い。
「そう思うのであれば、引きなさい。今なら、誰も傷つかない。あなた方も神であるのなら、無用な争いは避けたいはず」
「残念だが、我々の行動理由はすべて戦神様のため」
「……愚かな。神の我儘を叶えるために、世界を滅ぼすというのですか」
「必要があればそうする。それだけのこと」
感情を見せずとも、世界の意思の声は疑念に満ちていた。
神々が、「戦神の願いを叶えるためだけ」に己の身を犠牲にして世界に干渉するだとありえないのだ。
「よく見れば、あなたは世界の意思でありながら、神格を得ている。素晴らしい、自然に生まれる神は稀な存在だ。そうか――サミュエル・シャイトをはじめ、この世界に魔王や強者がいるのは良くも悪くもあなたの影響を受けているからか」
「我が子たちに特別なことはしていない。ただ、健やかに育って欲しいと願っている。それだけのこと」
「なんとお優しい。まさに世界、まさに母だ。できることなら、あなたのような世界に生まれ育ちたかった。残念だが、我々の世界は本当にどうしようもない世界でね」
「ならば――」
「気遣いは結構だ。すでに故郷である世界は他ならぬ我々が滅ぼしている」
「…………」
「きっと素晴らしい提案をしてくれたのだと思うが、必要ない」
「――残念です。では、死になさい。私に干渉することは、神々であっても許されない。この世界の狭間で朽ち果てるといい」
世界の意思が腕を動かす。
ゆっくりと掲げた腕を、静かに振り下ろした。
「――全てを切り裂く者」




