48「神々が動き出しました」①
――神界と世界の狭間に、激情のランドルフがいた。
「思えば、神々を拒む世界に無理やり干渉することは初めてだったな」
世界は膜に覆われている。
その膜はいわば、世界の力だ。
世界の意思そのものと言えるだろう。
「いくつか世界を見てきたが、この世界は大きく、強い世界だ。よほど、素晴らしい人々が暮らしているのだろう」
世界の強さは、その世界に住まう人々の強さだ。
戦いで強いという意味ではない。
魂が強い、ということだ。
この強さに関しては、神になったことではじめてなんとなく感覚的なもので理解した。
言葉にするには難しく、悩ましい。
「――激情のランドルフ」
「……嘆きのヘルミーナ」
ランドルフの背後に美しい女性がいた。
彼女は女神だ。
名を嘆きのヘルミーナと言う。
ランドルフと同じく、戦神ディーオドールに仕える神だ。
「少し調べましたが、美しい世界のようです。このような世界を破壊するとは、嘆かわしい」
「だが、それがディーオドール様の願いであれば、我々は叶えよう」
「もちろんです」
「何よりも、我々も退屈だ。神に飽きてきた。ディーオドール様の心からの願いを我々が察することはできないが、この世界でサミュエル・シャイトと存分に戦いたいと願うのであれば、場を整えるだけだ」
「無論です。ただし――サミュエル・シャイトが戦神ディーオドール様に相応しい強者でなければ、私たちで殺しましょう」
「実をいうと私も同じことを考えていた」
にぃっ、とランドルフが好戦的な笑みを浮かべた。
「私も神に至る前は勇者だ。戦神ディーオドール様に認められたサミュエル・シャイトという少年がどれほどの力を持っているのか興味深い」
「同感です。聞けば、不完全ながらこの世界に降り立ったディーオドール様が為す術もなく斬り殺された、と。なんと不敬な、と憤る以上に、その力が事実か確かめたくありますね」
ランドルフは元勇者、ヘルミーナは元聖女であった。
互いに、戦乱の時代に身を置いていた過去から、戦神に魅せられ仕えている。
神に至りながら、一度として戦神に毛ほどの傷さえつけることができない二人は、弱体化していたとはいえ戦神ディーオドールを一方的に斬り殺したサミュエル・シャイトに嫉妬と羨望を抱いていた。
「ところで、創造神はどうしましょう?」
「殺せばいい。我々は、創造神の顔さえ知らぬ。恩も義理も何もない。管理神様は悲しまれるだろうが、創造神が姿を消したことで多くの世界は不安定になったと聞いている。責任から逃げるような恥知らずが絶対的な創造神であるはずがない」
「戦神ディーオドール様も創造神に何かしらの強い感情を抱いていましたね。今は、サミュエル・シャイトのことしか考えていないようですが……殺しても問題ないでしょう」
「だが、嘆きのヘルミーナ、誤るなよ。我々は、戦神ディーオドール様に仕える者として、サミュエル・シャイトの関係者、無関係な民を殺すな」
「もちろんです。そのようなことができるはずもありません。――ですが、戦神ディーオドール様の手で滅ぼされるのであれば、我々が慈悲を持ち静かに眠らせてあげるのも救いかもしれませんよ」
「一理あるか。まあ、それは世界に降りてから考えるとするか」
「――はい。とても楽しみです」




