47「陛下は幸せです」
クライド・アイル・スカイは、王宮を抜け出してはウォーカー伯爵家に現れることが日課になっていた。
何度側近や護衛にお仕置きされても、フランシスに怒られても、コーデイリアに小言を言われても、通い続けた。
―――その理由は簡単だ。孫が可愛いからだ!
もともとクライドは愛情深い男だ。
王になったことで抱えるもの、背負うものが増えてしまい必死だったせいで家族を顧みる余裕がなかったが、それでも愛情を失ったことは一度としてない。
むそろ、クライドを支えていたのは、家族への愛情だった。
そんなクライドだからこそ、ステラが産んだ初孫が可愛くて可愛くて仕方がないのだ。
もっと言えば、娘婿であるサミュエル・シャイトは弟の息子であり、甥だ。
リーゼをはじめサムの妻たちも、親戚関係であるため幼い頃から知っている。そんな彼女たちの産んだ子も可愛くて仕方がないことは自然なことだった。
クライドは健気にウォーカー伯爵家に通った。
その姿は、コーデリアに「エミルの言動は陛下に似たのですね。――良かった」と安心させるほどだ。
クライドは気にせず、ゴネた。もうそれは子供のようにゴネてゴネてゴネまくった。
フランシスばかり伯爵家に滞在してずるいと、泣いてゴネたのだ。
孫たちが呆然としていたが、その姿も可愛かった。
これに根負けした側近と護衛が深々とジョナサン・ウォーカーにお願いして、執務室と伯爵家に用意してもらった。だが、条件として、王宮から通うこと、となった。
クライドは頑張った。
執務を午前中に終わらせて、午後は孫たちと戯れる。
ときどき、サムたちとも戯れ、男同士で風呂に入り背中を流し合う。
至福の時間だった。
側近が「こんなに早く仕事できるならいつもやれよ。っち、クソが」と言っていた気がするが、気にしない。
孫馬鹿と言われるかもしれないが、ジョナサンたちだって同じだ。
みんな初孫なので、クライドに苦言を呈しても、自分だって孫にデレデレなのだ。
「――今日もじいじが遊んであげるのである!」
ウォーカー伯爵家の面々はすっかり国王が家にいる日常に慣れてしまった。
最近では、メイドに「邪魔です」と箒で叩かれたり、料理長から下拵えの手伝いを命じられて、庭師から雑草抜きをさせられているが、クライドは気にしない。
むしろ、心地がよいのだ。
王になればわかる。
王は王であり、「個」ではない。
クライド・アイル・スカイとして扱ってくれる人たちの貴重さを知っているからこそ、この屋敷が好きなのだ。
ステラの産んだ男児テイリーを抱き、幸福を感じている。
一年前、まさか我が孫を抱きしめる日がこんなに早くくるとは考えもしなかった。
むしろ、子供たちの結婚をどうしようと悩んでいた。
今、子供たちはみんな結婚、もしくは婚約者がいて幸せそうだ。子が幸せなら親も幸せなのだ。
「――うむ。よきビンビンである!」
「――ぶ?」
テイリーが不思議そうな声を出した。
「ははは、テイリーにはまだ早いのである。いずれビンビンを伝授する日を楽しみにしているのであるぞ!」
クライド・アイル・スカイは幸せだった。




