34「マニオン側の事情です」①
エミル殿下の手紙は見なかったことにしたサムは、午前中いっぱいを子供たちと戯れると、午後は街に出ていた。
その理由は「彼」が王都に来たことを察知したからだ。
迷いなく足を進めていくと、城下町を出た小さな雑貨店の前に彼はいた。
「よう、マニオン」
「やあ、兄さん」
サムの弟マニオン・ラインバッハがいた。
「兄さんなら僕が王都に来たことに気づいてくれると思っていたよ」
「結構前に気づいていたんだけど、てっきり屋敷に来るかと思っていたんだけど来ないからさ」
「……何の面下げて、って思うんだ。ウォーカー伯爵家の皆さんにはご迷惑をかけてしまったからね」
「気にしないと思うけどなぁ。愉快な変態たちが毎日のように迷惑をかけているから」
「それはそれでどうかと思うけど……」
サムとマニオンは揃って吹き出した。
兄と弟のこういう会話は新鮮だ。
「まあ変態どものことは良いとして……今日はどんな用事があってきたんだ?」
「僕が不本意ながら面倒を見ている冒険者たちが休養をとって王都観光をすると言ってね。見送ろうとしたんだけど、なぜか連れてこられたんだ。働きすぎだって言われてしまったよ」
「ほどほどに休むことだって大事だぞ。マニオンの名前は王都にも届いているんだけど――もうちょっと偽名を頑張れよ。最初に聞いた時、あれ? 隠す気あるのかなって悩んだぞ」
「ははは、こればっかりは僕のネーミングセンスが悪いとしか。王都から子爵領に向かう間にずっと悩んだんだけど……」
「ど、どんまい。ところで、時間があるのなら少しお茶か、軽く何か食べにいくか? 奢るよ?」
「せっかくに兄さんのお誘いですから喜んでお受けしますよ」
「そうこなくっちゃ」
サムとマニオンは近くの喫茶店に入った。
店内の奥にテーブルにつくと、紅茶とケーキを注文した。
しばらくして運ばれてきた温かいお茶を味わいながら、会話を始めた。
「子爵領での日々はどうなんだ? あっちの領地のモンスターはそう強くはないけど、多いって聞いているんだけど」
「そうですね。実際、数は多いですよ。ただ、敵ではないので処理に近いですね。疲れはしますけど、問題ではありません」
「その数が毎年問題みたいなんだけどな」
今年はまだ要請が来ていないようだが、毎年、魔法軍や宮廷魔法使いの出動要請がくるようだ。
だが、今年はマニオンのおかげで要請はないかもしれないな。
「冒険者の人たち、ギルドもよくしてくれているよ。野蛮な人間ばかりだとかつては思っていたけど、気さくで良い人ばかりさ」
「だな」
どこにでも良い人間も悪い人間もいる。
サムも冒険者業をしていたが、子供だからと執拗に突っかかってくる者もいれば、子供扱いせず対等に扱ってくれる者もいた。
マニオンの周囲に良い人が多いことを喜ばしいと思った。
「でもね」
「うん?」
「――リーデル子爵に僕の正体がバレちゃったよ」
「…………げほっ、ごほ、ごほっ」
想定外の出来事を伝えられて、サムは全力でむせてしまった。




