35「マニオン側の事情です」②
「ちょ、げほっ、まじで?」
「うん。兄さんも言ったけど、偽名が偽名になっていなかったようでバレちゃったんだ。この世界で生きていた時の僕は子供だったから、外見が二十歳くらいに成長しているから大丈夫かなって思っていたけど、ダメだったよ」
サムは、苦笑いするマニオンからハンカチを受け取り、口を押さえた。
「極力合わないようにしていたんだけど、寄付をしすぎていたみたいでもしやってなったらしいよ」
「そっか。なんか言われた?」
「正直、罵声を浴びて殴られる……正直を言えば、刺されてもおかしくないと覚悟していたんだけど、お礼を言われちゃったよ」
リーデル子爵領にいく前よりも表情が明るいのは、きっとそのことが理由なのだろうと思う。
リーデル子爵にマニオンは思うことが山のようになるはずだ。
しかし、多くのモンスターを駆逐し、その収益を寄付に回すマニオンの真摯な姿を見て「今の」マニオンに心から感謝したのだろう。
サムは、リーデル子爵に尊敬の念を抱く。
心無い言葉を投げることもできたはずが、感謝の言葉を言ってくれたことに、兄としてただただ感謝しかない。
「僕の出番はしばらくないようだから、それまではリーデル子爵領で償い続けるよ」
「――ああ、もう神々が楔を破壊しにくることを聞いているのか」
「うん。ヴァルレイン様から何もするなとお達しもあったよ」
何気ない会話に聞こえるが、サムとマニオンはいずれ敵として戦う運命にある。
おそらくは、どちらかが死ぬまで決着がつかない戦いとなるだろう。
「神もさ、自分でやれよって感じだよ」
「ははは、一応、僕は楔を破壊するためにここにいるんだけど、戦神ディーオドールたちとは根本から違うからね。正直、ヴァルレイン様も戦神とは最終的に戦うことを覚悟しているんだ。だから、もし戦神の配下がこの世界で好き勝手やるのであれば――愛情と戦いの女神ヴァルレイン様の名の下に、僕が神々を殺す」
サムはぞくり、とした。
マニオンは本当に新たな神々と戦う選択もあると言っている。何よりも、戦って勝つと豪語している。
それだけの自信と、実力があるのだ。
「僕は神々に対しては好きにしろとヴァルレイン様から言われているんだ。楔を破壊してくれるのであれば、助かるけれど、その過程に問題があるのであれば邪魔だ。ヴァルレイン様はこの世界を傷つけたいわけじゃない、愛したいのだから」
「お優しい神だ」
「兄さんもちゃんとお言葉を交わせばわかるよ。ヴァルレイン様ほど、慈悲深く、優しく、恐ろしい神はいない」
心酔とは違う。
何か別の感情をマニオンから感じ取れた。
サムはそのことに関して何も言うつもりはない。
「ま、ヴァルレインと話ができるのであれば、いつかするさ。その前に、神々だな。安心しろ、マニオン。俺もこの世界で勝手にされるつもりはない。全力を持って――斬り殺してやる」




