33「エミル殿下からのSOSです?」②
エミル・アイル・スカイはスカイ王国第二王子であると同時に、良くも悪くもしっかりスカイ王家の血を引いた少年だ。
第一王子セドリックは勤勉で文武両道、努力することを苦としない良き人間だ。いずれは王となりスカイ王国を導いてくれるだろう。
対して、エミルは基本的になんでもそつなくこなしてしまう。しかし、これといって特別何かに興味を抱くことができない人間だった。
エミルは割と無気力だった。王子の地位にいて、ある程度のことはなんでもできる。少々、母親が王位に固執していることが鬱陶しいが、「はいはい」と返事をしていれば害はない。
兄を蹴落としてまで王位を欲しいとは思わないし、王になりたいとも思わない。
――何を好き好んで魔王の墓守などしなければならないのだ。
国王以外知らないはずの魔王の墓守のことも知っていたので、王位に毛ほどの興味もなかった。
それなりに愉快に生きていければ構わない。
そんなゆるい考えで過ごしていたが、ある日――世界が変わった。
サミュエル・シャイトがスカイ王国王都に来てから、目まぐるしく色々なことが起きていく。
魔王が倒され、スカイ王家は墓守から解放された。
すると賢王と名高いクライド・アイル・スカイがはっちゃけ出した。
母との関係も再構築し、姉レイチェルが嫁ぎ、周囲は大きく変わっていった。
そして、エミル・アイル・スカイは全裸の君――こと、メルシーと出会ったのだ。
衝撃だった。
全裸で空を飛ぶ芸術的な美しさ。
その正体は竜であり、強く気高いと聞く。
サミュエル・シャイトをパパと、アリシア・ウォーカーたちを母と呼び慕い、天真爛漫な姿は貴族の子女ではあまりみられないものだった。
エミルは、父のはっちゃけ具合ややりたい放題になってきたスカイ国民を見て悟った。――自分を解き放とう、と。
王子エミルではなく、エミル個人として今まで我慢してきたものを解き放った。
――その結果、シューレン魔法国に追放されてしまった。
「――解せません」
シューレン魔法国の王都にある建物にて、エミル・アイル・スカイはこれまでの自分の言動を振り返り、頭を抱えていた。
スカイ王国を追放されてこの地に来てしまい、早く帰ろうと考えていたのだが、あまりにもこの国の人間が仕事が遅いので口を出してしまった結果、大歓迎されている。
それはいいのだが、気づけば大きな屋敷を与えられ、仕事部屋には大量の書類、グライン国王からの信頼が厚い人物として重宝されていたのだ。
「……どうしましたか、エミル様?」
物心ついた頃から一緒にいるメイドのシューリーは母のお気に入りで、知らぬ間に婚約者にされていた。
無表情で感情を表に出すことを得意としない彼女だが、ジュラ公爵家とイグナーツ公爵家で行儀見習いをしただけあり、優秀である以上にアグレッシブだ。
彼女に純潔を奪われ、涙を流した日のことを生涯忘れることはないだろう。
しかも、それ以降も搾り取られる日々だ。
このままでは、尊敬する叔父ロイグ・アイル・スカイの二の舞になってしまう気がしてならない。
わからせ殿下と名高いロイグは、サムの父だが、ベッドの魔王と恐れられる息子を持つとは思えない受け身なかただ。
尊敬すると同時に、歳の離れた友人のような存在である叔父は――きっと今もジュラ公爵家で軟禁されているのだろう。
「あの、僕って一ヶ月くらいでスカイ王国に戻る予定だったんですけど」
「はい」
「気づけばそれ以上いるというか、仕事量から半年以上は帰られない気がするんですけど」
「そうですね」
「…………」
「…………」
「そうですね、じゃないんですけど!?」
「コーデリア様は大変お喜びです」
「最愛の息子と離れているのに!?」
「はい、とても。最愛の息子であるエミル様の評価がこれでもないくらいに地に落ちていたのに、今は鰻登りです」
「……あれ? 僕ってそんなに評価低かったんですか?」
「とても。とても。とても、低かったです」
「念を押さないでくれます!? ば、バカな、やる気のない王子としての振る舞いがそれほど悪かったのか」
「いえ、どちらかというと、クライド陛下とロイグ殿下を足して二で割らなかったエミル様なのでもともと低かった評価が、メルシー様への気持ち悪い言動でさらに落ちたという感じですね」
「――解せぬ」
「正当な評価です」
エミルは震えた。
まさか自身の愛が、周囲から見ると評価が低いとは思いもしなかった。
どいつもこいつもその目は飾りか、と言いたい。
「ええいっ、僕はもう我慢できません! スカイ王国に戻ります! 全裸の君にお会いしなければ、禁断症状が!」
「……まともにお会いしたことがないのに、禁断症状が出るのですか?」
勢いよく立ち上がったエミルは、そっと椅子に戻る。
「特に出ないですね」
「なんですか、この茶番は……。とにかく、エミル殿下はシューレン魔法国にてご評価を上げていただきます」
「国に帰ると言ったらどうしますか?」
「ご安心ください。そんなことが考えられなくなるくらい、たくさんのご褒美を差し上げましょう」
「――ぴ」
無表情ながら舌舐めずりをしたシューリーに、エミルが情けない声を出した。
このメイド、仕事が終わるとご褒美と称してあんなことやこんなことをしてくるのだ。
おかげで、スカイ王国に単身戻る体力がない。
親友にして竜の玉兎も、知らない間にシューリーに丸め込まれていて「婚約者を大事にするんだぞ」という始末だ。
「ご褒美の前に、書類のチェックをお願いします。先日、玉兎様が制圧した土地の有効活用に関しまして――」
「サムお兄様、たすけて。このままだ過労死か、搾り取られ死しちゃいますぅうううううううううううううううううううううう!」
「残念ですがサミュエル・シャイト様はこの場にいらっしゃいません。どれだけ助けを求めても、無駄です」
「いやぁああああああああああああああああ! きっとサムお兄様なら僕の危機を第六感で感じ取ってくれるはずですぅううううううううううううううう!」
叫びながら、エミルは目の前に積まれた書類と向き合わなければならなかった。
■
「――っ」
「どうしたの、サム?」
「いえ、そろそろお花見の季節だなと思いまして」
「あら素敵ね。もう少し暖かくなったら子供たちを連れていきましょう」
「はい!」
残念だがサムにはエミルの叫びは届かなかった。
エミル殿下はかーなーりー優秀です。どちらかというと天才肌なのですが、あくまでも第二王子として兄の邪魔をせずに生きていました。ただ、途中途中で愉快な言動が目立つ子だったので、「残念王子」と言われておりました。
今回のお話の数日後に、サムのもとにお手紙が届きましたが、特に救出されることはなくお仕事の日々が続きます。
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