32「エミル殿下からのSOSです?」①
話がひと段落すると、ジョナサンは次の話題に移った。
「そういえば、サムに手紙を預かっている」
「俺、手紙? どなたからですか?」
「――エミル殿下からだ」
「……この話は聞かなかったことにしてください」
「申し訳ないが、仮にも殿下からの手紙なのでそれはできない。受け取ってくれ」
そう言って差し出されたのは、なぜか赤いシミがところどころについた封筒だ。
サムと友也の頬が引き攣る。
「あの、旦那様。手紙から血の匂いがするのですが」
「少量ですけど、確実に血がついていますよねこれ?」
「……ははは、気のせいだ。まったくエミル殿下もしようのない方だ。手紙にトマトソースをつけてしまうとは」
「トマトソースって、そんな無茶な」
「トマトソースだ。トマトソースでしかない」
ジョナサンも血の匂いに気づいているはずなのに、あくまでもトマトソースであると譲らない。
このままでは話が進まないので、サムは渋々手紙を受け取り中身を確認した。
――手紙には、赤く力ない文字で「たす、けて」と書かれていた。
「エミル殿下に何があったんですか!?」
「――さあ?」
「さあ!?」
「本当に知らないのだ。陛下から渡されたのだが、何も言ってくださらなかった。私も、トマトソースがついた便箋を見て、聞かない方がいいと判断した」
(――俺も旦那様の立場だったら同じことしそう)
「あー、しかし、聞いた話ですと、エミル・アイル・スカイ殿下はシューレン魔法国でうまくやっていると耳にしているのですが?」
友也が尋ねると、ジョナサンが首肯した。
「普段の言動からは想像できないだろうが、エミル殿下はもともと優秀だ。コーデリア王妃が早くから英才教育をしていたので、勉学、武芸、魔法と優れている。言動のせいですべて台無しだがね」
「そうらしい、ですが。本当なのでしょうか?」
「私も殿下の言動を見ていると信じられないのだが、実際優秀であることは存じ上げているよ。あまり大きな声では言えないが、セドリック殿下よりも優秀だ。無論、普段の行いのせいで全て台無しになっているがね」
(――旦那様、めっちゃ普段の言動がダメだって念押しするなあ。いや、実際、エミル殿下の普段の言動はおかしいんだけどさ)
むしろ、エミルの普段の言動しか見たことがないサムとしては、彼の優秀さが想像できなかった。
シューレン魔法国でうまくやっていることもそうだが、セドリックよりも優秀であることも、なかなか脳裏に浮かばない。
(――もしかして別人の話をしているんじゃないのかな。エミルさんという方がもうひとりいらっしゃるとか……スカイ王国ならありえそうで怖い)
「……言いたいことも聞きたいことも山のようにあるんですけど、たすけて、って何からなんでしょうか?」
きっとしょうもないことだろうなぁ、とサムたちは考えてしまった。
エミル・アイル・スカイ第二王子:コーデリア派から「エミル殿下がもうちょっとアレじゃなければよかったのに」と残念がられる逸材。母コーデリアも「……我が息子を王にしたいが、その場合スカイ王国が滅びる可能性が高い。悩ましい!」と悩ませたこともありました。
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