31「ジョナサンはお疲れです」
王宮での会議から三日が経った。
早朝。疲れ果てたジョナサン・ウォーカーが帰ってくると、風呂に入り、軽食を食べて一杯だけワインを飲んでようやく一息をついたようだ。
「……メルシー、ルーシー、アーリーにお背中を流してもらってささくれていた心が癒えたよ。まったく、陛下め。世界の意思様と女神エヴァンジェリン様のために祭りをどうしてもやると駄々をこねてしまってね。子供がおもちゃを買ってもらえず泣き喚くよりも酷かったよ。イグナーツ公爵が腹に一発きめて、ジュラ公爵が平手打ちして、呼んだヘイゼル様にお説教をしてもらい、ようやく、ようやく祭りは延期になった」
「……延期、ですか?」
「中止ではないんですね」
すでに起きて鍛錬を終えていたサムと友也がジョナサンの愚痴に付き合いながら、暖かなお茶を飲んでいる。
「中止だけは絶対に譲らなかったので、ヘイゼル様のご提案で神々と決着が着いたら堂々と祭りをすればいい、ということになった。いや、なったというか無理やりそうまとめてくださった」
「さすがヘイゼルおばあちゃん」
「クライド陛下もお母上には頭が上がらないようですね」
サムが感嘆し、友也が苦笑した。
どの世界でも、息子は母親に頭が上がらないのだ。
逆に言えば、ヘイゼルが介入してくれなかったことを思うとゾッとする。
神との戦いの前に、スカイ王国の祭りで大きく疲弊しそうだ。
「まったく陛下には困ったものだ。今までの苦労を知れば、仕方がないと思えるのだが、それはそれとしてはっちゃけすぎだ。落ち着くものかと思いきや、なかなか落ち着いてくださらぬ」
「長い時間、自分を押さえ込んできましたからね。同じ時間はっちゃけるんじゃないでしょうか」
「長すぎるだろう!?」
ははは、と笑ってみたが、笑えない。
サムも、ひとりで魔王を封印している重圧をかされたらストレスで性格が変わってしまう自信があった。
それだけの苦労を歴代の国王たちがしてきたのだ。
封じられていた魔王レプシー・ダニエルズは現在人間としてスカイ王国の宮廷魔法使いの役職に就き、家族と一緒に仲良く暮らしているのだから、人生何が起きるかわからないものだ。
「我々としては、神々との戦いに負けるつもりはないが、勝ったら勝ったで祭りが待っているので今から考えるだけで胃が痛いよ」
「先のことを考えられるのはいいことだと思いますけどね」
「違いない」
スカイ王国の国民性はさておくとして、前向きに考えられることは長所であると思う。
神と敵対すると考えただけで悲観に暮れそうだが、スカイ王国民はそんなことにはならない。
国を、世界を裏切り、神につこうとする者も出てこない。
実に、良い国だ。
「安心してください、旦那様。俺だって、家族の未来のために勝つことしか考えていません」
「――頼もしい。サムにばかり負担を敷いてしまうが、できることはなんでもしよう。頼む」
「……はい」
戦うのであれば負けるつもりはない。
負けたあとのことも考えない。
後先考えていないわけではなく、マイナスなことを考えないのだ。
陛下やジョナサンたちは最悪の自体も考えているだろうが、サムたちに気遣って口にしないだけだろう。
サムは貴族としての経験は足りていないので、考えることは年長者に任せよう。
――サミュエル・シャイトのするべきことは、戦い、勝つ。それだけだった。




