29「綾音っちの優雅な一日です」②
食堂に着いた綾音は見知ったメイドたちと挨拶を交わす。
誰もが「綾音っち」とフレンドリーだ。
綾音も特に気にしていないが、なぜか白雪に「お姉ちゃんがそれでいいならいいんだけど」となんとも言えない顔をされたのが不思議だった。
「あー、やっぱ朝はお茶よね」
魔王遠藤友也の転移によって、先日サムと白雪とオフェーリアの四人で日の国に行ってきたばかりだった。
半日の滞在だが、日本を連想させるものが多い日の国を綾音は気に入った。
サムの婚約者組としてウルとゾーイも誘ったが、ウルはいろいろ日の国でやらかしたことがあるので見送ることに、ゾーイも魔法少女の衣装合わせがあるので渋々見送ることにした。
ふたりにお酒を買ってくるように言われたのは言うまでもない。
日の国の街並みは、江戸時代のようで時代劇に出てきそうな感じだった。
それでいながら、魔法によって日常生活はスカイ王国と変わらない便利さがある。
食べ物も、米、味噌、海の幸といった馴染みのあるものばかりで、味付けも好ましかった。
特に綾音が感動したのが、そばとうどんを食べることができたことだろう。
同郷であるサムと友也、白雪も喜んで食べていた。
オフェーリアは最初こそ「麺を啜る」という食べ方に抵抗を覚えたようだが、すぐになれるとおいしさに感動していた。彼女は特に、トッピングの油揚げを気に入ったようだった。
日の国で、お茶と急須、そして湯呑みを購入した綾音は、毎日お茶を飲んでいる。
白雪もしっかりお茶と急須、湯呑みを購入し、飲んでいるようだ。
紅茶やコーヒーも好きだが、やはりお茶の方が馴染みもあって好ましい。
探せば烏龍茶もどこかにある気がしたので、いつか探してみたいものだ。
「さてと、朝食まで時間があるから教会に行きますか」
修道服ではなく、スボンにセーターといった出立だが問題ない。
伯爵家のテラスからひょいと飛ぶと、あっという間に愛の女神エヴァンジェリンの神殿へたどり着いた。
「おはようございます、綾音」
「おはよ、メイ」
「今日も時間通りで何よりです」
「そりゃシスター見習いですから」
元勇者、元女神という肩書きはあるが、今の綾音はシスター見習いである。
毎日の掃除はシスター見習いの仕事だ。
親友であるメイ・リー・リーは見習いではなく、シスターだが、こうして毎日一緒に掃除をしている。
綾音にとって、メイは他のシスター見習いたちと一緒にちょっとした話をしながら掃除をする時間は大切だった。
先日までの、雪かきは死ぬほど大変だったが。
「神々に関してメイたちは知っているんだっけ?」
「はい。すでに報告はありました。エヴァンジェリン様が神々と戦うと意気込んでいるので、止めるのが大変です」
「……まあ、ある意味奴らの標的のひとつでもあるものねぇ」
「それもありますが、エヴァンジェリン様は私たちの支えです。失うことができません」
「そりゃねぇ」
神聖ディザイア国、スノーデン王国、シューレン魔法国から保護された人間の大半が、愛の女神エヴァンジェリンの神殿の保護下にある。
エヴァンジェリンは認めていないが、エヴァンジェリン教なるものが水面下で広がっているのだ。
そんなエヴァンジェリン教の信者は多く、スカイ王国一の商人オーネィ・ショ・タスキーがその筆頭だ。
エヴァンジェリン教にオーネィがいるからこそ、保護した人々は安心した生活を送ることができる。衰退した国にも支援物資を送ることができる。
もし、エヴァンジェリンがいなくなってしまったら、大きな混乱がもたらされるだろう。
「――私も女神だったことはあるけど、こういう慕われ方しなかったわねぇ」
どちらかと言うと、戦力に期待されていた面が大きい。
だが、その力も妹によってすぐに封印されてしまったので、使えずに終わった。
「でしょうね。綾音ですもの」
「ちょっと!? 事実ですけど言い方ぁ!」
「それはさておき、多々次郎がまた新たなシスター見習いと親しくなってそろそろ刺されるのではないかとみんなで賭けをしているのですが、綾音も乗りますか?」
「ちょ、ま、何それ詳しく!」
綾音にとって、友人との何気ない会話がとても幸せだった。
この時間を守るために、戦う理由は十分すぎた。




