27「神界の動きです」
――神界。
戦神ディーオドールの前に、神々が膝をつき頭を垂れていた。
神々はディーオドールに劣るが、上位の神であり、それぞれ生前に偉業を成し遂げた者、勇者や聖女と呼ばれた者たちだった。
「ディーオドール様、我らはこれより出陣して参ります」
「――そうか」
激情のランドルフが代表して挨拶をするが、ディーオドールの反応はとても素っ気なかった。
以前は、友のように力強い笑顔で応じてくれた尊敬する神の変化に、激情のランドルフたちは戸惑いを覚えたが、表には出さなかった。
神々によくある症状――「飽き」だ。
絶対的な創造神を除き、現在神界にいる神々は人間が神に至った存在だ。
ほとんどの神が生前に何かしらの偉業を成し遂げた人間であるが、そんな彼らに取って――神界はあまりにも退屈だった。
今まで多くの神が、「飽き」に狂い壊れてしまった。
中には、神々との戦をし、互いに管理する世界を巻き込んで滅んだ神もいる。
人知れず滅んでしまった神もいる。
神であることをやめて人としての人生を送る者もいる。
神々にとって「飽き」は毒だった。
「……人であった頃が懐かしい」
ディーオドールはどこか遠くを見る様な目をしていた。
少なくとも眼前にいる激情のランドルフたちのことは見ていなかった。
「ディーオドール様?」
「敵ばかりであった、憎しみの中で戦いが多かったが……楽しかった。何度も死にかけ、強くなり、世界を統治した。最期こそあっけなかったが、満足だった」
「……我らも人であった時が恋しく思います」
「神になる誘いを受けて、はるかな高みに至れるのだと思い、乗った。最初は楽しかった、とても楽しかった。神々と戦い、戦神の称号を奪い取り、気に入った戦士を神に招いた」
激情のランドルフも、戦神に招かれた戦士でありながら、神となり力をつけ、何度も戦い敗北した。
ディーオドールの強さに魅せられ、服従したのだ。
「神々に管理されていない世界は星の数ほどある。神などいなくとも、世界は育っていく。むしろ、神の干渉がない世界の方が傑物が現れる。神々が何をしたいのか、わからない。わかりたくもない。とにかく、もう飽きた」
「どうかもうしばしお待ちください。我々がかの世界の楔を破壊し、ディーオドール様のお心を見たしましょう。かの世界にいる創造神、そしてディーオドール様を見事にも傷つけたサミュエル・シャイトとの本気の戦いを経て、世界を滅ぼしましょう」
「――サミュエル・シャイト! 創造神!」
初めて、戦神ディーオドールの瞳に、感情が浮かんだ。
ようやく激情のランドルフたちを認識した。
「そうだ! 我を四肢を斬り落としたサミュエル・シャイトだ! いくら弱体化していようと、何もできずただ斬られた! あの時の高揚感は凄まじかった! あの者と全力で戦うことができれば、我の渇きは満たされる!」
「――――しばしお待ちください。我らの神よ」
「激情のランドルフよ」
「――はっ」
ディーオドールに名を呼ばれ、ランドルフは歓喜した。
「我は戦士だ。サミュエル・シャイトと戦いたい。同じ条件などと甘いことなど言わない。戦士としての最大の礼儀として、十全の力を持って奴を殺したい」
「サミュエル・シャイトは果報者です」
「そのために、我をあの世界に招いてくれ。あの世界がどうなっても構わない。我はただ、サミュエル・シャイトと戦いたい!」
「かしこまりました。戦神ディーオドール様のために、命を堵してかの世界の楔を破壊して見せましょう」
――神界から四柱の神がサミュエル・シャイトたちが住まう世界に向かった。
――神々との戦いまで、あと少し。




